013_2
※こちらの続きです。
※少しだけ幼少期の捏造話があります。
「しばらく、お前の部屋で寝て良いか……?」
そう言ってから後悔した。
おれは何を口走っているんだ。この年で、船長とはいえ年下にそこまで甘えちゃだめだろ。
見張りをしばらくやりたくないとか、今後はああいう会に参加したく無いとか、そういう事を言うべきだろう。
案の定、キッドも呆れてるのか沈黙している。
「あの、キッド、今のは……」
「……良いぜ、お前と二人でもベッドには収まるだろ」
ちょっと待て。発想が飛躍し過ぎだろう。
確かソファがあったはずだし、キッドの想定だと、ベッドが広いとはいえかなり密着しなきゃ無理だ。さすがに、そんなことはできない。
それにキッドは嫌じゃないのか。
「キッド、一緒に寝るとは言っていないぞ……?」
「ああ、まァ暑いしな……でも他に方法はねェだろ」
「いや、床とかソファとかがあるだろう」
幽霊の怖さを解消できるまでの数日間ならそれで構わない。
だが、キッドはそうさせる気は無いようだった。
「寝るならベッドで寝ろ。疲れ取れねェだろ」
「……いや、それはまぁそうだが」
「それともまさか、おれと添い寝すんのが嫌なのか?」
嫌だ、と言わせる気のない様子でキッドが言う。
嫌なワケはないし、キッドは嫌じゃないのだろうと思うと嬉しい。だが、キッドの睡眠を妨害してしまわないだろうか。
考え過ぎて答えられずにいるおれに、キッドが言う。
「断る理由がねェんだろ? なら来い」
「あ、ああ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一応、キッドの睡眠を妨害したくないだとか、お前は嫌じゃないのかとか言ってみた。
だが全て、「おれは気にしない」の一言で一蹴されてしまい、結局キッドの部屋にいる。
ベッドの上で上半身を起こしたキッドが、少し離れた場所でどうしようか戸惑うおれに声をかけてきた。
「ほら、入れよ」
「お邪魔します……」
「なんで敬語なんだよ」
キッドはそういって、緊張しながらベッドに近づくおれをぐいと引き寄せた。
「うわっ!」
結果、転ぶようにベッドに伏せる羽目になった。マスクを外す暇もない。そもそもキッドの部屋に鍵は無いから、外すワケにはいかないのだが。
などと考えていたらキッドがその事について訊いてきた。
「マスク、外さねェのか?」
「鍵も無いし、着けたまま寝るしか無いだろうな……」
いっそ、マスクが当たって痛そうだ、とかいう理由で取りやめてくれないだろうか……という願望は、次のキッドの言葉であっさり打ち砕かれた。
「寝辛いだろ。おれが隠しといてやるから外せよ」
そういうと、キッドはおれのマスクを手際良く外した。そして、おれの頭を胸のあたりに抱き寄せて寝転がる。
これは何というか、おかしいだろ。厚意は嬉しいが、おれたちは恋人でもないのに。
「キッド、こういうのはダメだ……」
「なんでだよ?」
「おれたちの関係で、すべきじゃないだろう」
おれがそう返すと、キッドは意外そうに言った。
「いや、普通だろ? 恋人なら」
「……恋人?」
待て。いつの間にそんな関係になってたんだ。勿論、恋人である事自体は嬉しいが、告白した覚えもされた覚えもない。
戸惑うおれにキッドが言う。
「だってお前、おれの嫁になるんだろ?」
「……!」
キッドの発言で、おれはある事を思い出した。それは、おれたちがまだ子どもと呼ばれる年齢だった頃の会話だ。
『なあなあ、キラー』
『何?』
『あのな……おれ、お前のことすきだ』
顔を真っ赤にしてキッドが言った。
その時のおれは、嬉しさで頬を赤くしながらこう返した。
『うん、おれも好きだよ』
その返事に、キッドが嬉しそうにこう言った。
『ほんとか!? じゃ、大人になったら“けっこん”しよう!』
『? うん、いいよ』
意味は分からなかったが、キッドがしたいならおれもしたいと思って、そう答えた。
……と、いうようなやりとりがあった。
今にして思えばおれもキッドのことはそういう意味で好きだったし、結婚なんて言うんだからキッドもそうだったんだろう。
だが、その後色々あって、大人になる頃には海賊になり、すっかり忘れていた。今になって思い出したワケだが。
全て思い出したおれは、色々と戸惑いながら言った。
「……うん、そうだな、確かに恋人だな」
「だろ?」
キッドへの想いを明確に自覚してから数年、おれの今までの悩みとは一体なんだったのだろうか。
本当に、すれ違いというのは恐ろしい。
「なんというか……少し幽霊に感謝すべきかもしれない」
「何でだ?」
「今回、素直になれたからな」
本当は約束を思い出したからだが、今まで律儀に覚えていたキッドに知られるワケにはいかない。
「それもそうだな」
「……ところでキッド」
おれはさっきの会話の内容で気になった事を聞くことにした。
「あ?」
「何でおれが嫁で確定なんだ?」
「何でって、おれがそうしたいからに決まってんだろ」
さも当たり前のようにキッドが言う。
なんとなく、とかならまだしも、そう言われたら反論できないじゃないか。
「……それなら、仕方ないな」
「ああ」
色々と観念して、おれは片腕をキッドの背中にまわし、抱きしめた。
それに応えるように、キッドもより強く抱きしめてきた。少し暑いが、安心する。
「それじゃ、寝るか」
「ああ、おやすみキッド」
「おう、おやすみ」
言葉とともに頭を撫でられ、おれは何か満ち足りた気分で目を閉じた。
【終】
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