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高尾×香水

「あ、れ?」

 目覚ましの音にゆっくりと目を開けると、感じる少しの違和感。素っ裸な私。自分の部屋なのに、なにか違う様な。ふわりと備考をかすめる香りに一気に頭が覚醒した。和成の香り。そうか、そういえば昨日、和成がうちに泊まっていったんだった。

 なんとなく私自身からも嗅ぎなれた和成の香りがする気がして、頬が緩む。ああ、好き、だなあ。

 もう一度シーツに顔をうずめると、和成の香りに包まれる。本人の首筋に顔を埋めたいのが本音だけど、そんなことできないし。しばらく和成の香りを堪能して、部屋着を着る。
 そこでちょうどドアが開いた。良かった、さっきの痴態見られてなくて。

「んー千恵」
「和成、濡れるって」

 腰にタオルを巻いたまま、いかにもシャワーを浴びてきましたという姿の和成に抱きしめられた。ぐいぐいと押し付けられる彼の髪の毛はまだしっとりと濡れていて、動くたびにとんでくる雫が冷たい。
 そもそも薄手の部屋着だと和成の筋肉や体つきがダイレクトに伝わってきて、色々心臓に悪い。やめて。朝から死んじゃう。

「乾かしてほしいなー」
「……これから大学だよ? 私も自分の準備あるんだけど」
「まだ時間大丈夫だろ」
「そうだけど」
「ねえ、千恵ちゃん」

 この、甘えたようにちゃん付けで呼ぶ和成の声に私はどうしても弱いらしい。かわいいなあ、もう、と毎回彼の言うことをきいてしまう。無論、今日も。
 視界に暴力でしかない和成にバスローブを羽織らせ、椅子に座らせた。オイルタイプのトリートメントを塗って、彼の後ろから、サラサラと流れる髪をすきながら、熱風をあてていく。なんだかんだ言って、この瞬間が結構好きなんだよね。和成の髪の毛を梳く感覚が。

「俺この瞬間結構好き」
「どうしたの急に」
「千恵の指が俺の髪をすく感じが好きなの」

 動揺してしまって、思わずドライヤーを動かしていた手がとまる。落ち着け、私。全く同じこと考えていたとか、それどころじゃないけど、落ち着いて。目の前にいるのは大好きな彼氏だけど、それ以上に人たらしな高尾和成だ。冷静でいないとすぐに心臓を食われるぞ。

「照れんなって!」
「……照れてない」
「へえ?」

 顔を上げ、突然こちらを見上げた和成にドキリとする。そのまま腕が伸びてきて、私の頭を掴んで引き寄せられた。少し動けば唇が触れ合う距離。咄嗟に椅子の背に手をついて、何とかキス未遂で終わったけど。
 目の前の男はつまらないという顔をしている。

「なんでキスさせてくんねーの」
「いまキスしたらベッドに逆戻りでしょ」
「わかってるじゃん。さすが俺の自慢の彼女」
「な、」

 少し腰を浮かせた高尾に結局唇を奪われた。得意そうな顔をする和成を照れ隠しににらみつければ、全てを見透かしているかのごとくほほ笑まれた。く、かっこいい。

「講義のあとは今夜クリスマスデートだろ? そんなことしねーよ。千恵が楽しみにしてたの知ってるし」
「うん、今日ほぼ一日一緒にいれるの嬉しいよ」
「もちろん、千恵がベッドのが良いってんなら、俺としては歓迎だけど?」
「ちょっと!」

 朝からふざけたことを言う和成をなんとか振り払って洗面所に逃げ込む。赤くなる顔を冷やして、なんとかメイクをしなければ。今日は大学もあるけど夜はデートなんだから、朝からデート仕様にしたいし。
 付き合って初めてのクリスマスデートなうえに、珍しく和成が夜部活がないオフの日だ。もちろん和成といれるならどこだって幸せだけど、せっかくなら二人で新しい思い出を作りたい。だから夜はお店も予約したし、新しいワンピースも用意した。

「千恵、入っていい?」
「ちょっと待って……いいよ」

 セットした髪の仕上げのピンを挿して声をかければ、着替えを済ませた和成が洗面台に姿を現した。相変わらず何を着ても似合う。棚から和成がいつも使っている香水をとり、首筋や腕につけているのを見守っていれば、ふわりと洗面所内が和成の香りに包まれた。
 香水をなじませ、鏡を見ながら襟元を直している和成と鏡越しにパチリと目が合う。すると頭上から楽しそうな、「見とれちゃった?」という声が降ってきた。図星ですけど、何か。

「和成がかっこいいのが悪い」
「俺はそんなこという彼女が可愛すぎて心配」
「なんでよ」

 和成は答えないまま、もう一度香水をとると私の鎖骨と腕に香水をつけた。突然の行動にびっくりしていると、足首にも同様にひんやりとした感覚が広がる。満足そうに香水を棚に戻す和成に呆気に取られていると、「どうかした?」と首を傾げられた。

「いや、なにしてるの……?」
「クリスマスで浮かれた奴からの虫よけ的な?」
「その心配は必要無いんじゃ……?」

 私の後ろに立つ和成と再び鏡越しに目が合った。和成はぱちぱちと目をしばたたかせて、少し考えているようだ。私にしてみれば正直虫よけが必要なのは私の真後ろに立つ彼氏様の方なんだけど。
 あなた自分の魅力分かってる? 分かってないよね? 年が上がれば中身を重視する子も増えるんだよ? ただでさえかっこよくて気がきいて甘え上手でいい声をしてるのに。加えて誰もが認めるハイスペック。しかもスポーツマンで細マッチョ。モテる要素しかない。

「千恵面食いだもんなー、寄ってきても相手にされる男も少ないか」
「……私の彼氏よりかっこいい人見たことないけど」
「はあああもう……千恵〜〜」

 後ろから大きな腕に抱きしめられた。肩口に顔をうずめられて表情は見えないけれど、鏡越しに赤く染まった耳が見えた。先ほどドライヤーをかけた髪に指を通す。くぐもった声で再度和成に名前を呼ばれた。

「ほんとさあ、そういう不意打ちやめて」

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