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52
 どうにも視線が涼宮に向いてしまって、意識を別に向けるためにバーガーの包み紙を意味もなく4つ折りにする。
 そう言えば、水以外渡していなかった。やっぱり俺も今日ちょっと緊張しているらしい。左右それぞれに飲み物のカップを持って涼宮を見る。

「ブドウとアイスコーヒー、どっち?」

 未だ、涼宮はおごられることに迷いが見える気がする。謙虚な姿勢は良いがい、いきすぎると傷つくぞ、俺も。

「待って、当てさせて。ブドウだろ?」
「……う」
「え、まさかコーヒー?」

 お昼休みの飲み物の系統からブドウかなと思ったんだけど、オレンジジュースの方がよかったかな、と少しの後悔がよぎる。コーヒーと炭酸系は飲んでいるところを見たことが無いから、苦手なのかと思っていたが。
 コーヒーを差し出そうとしたら、ゆっくりと涼宮が首を振った。

「……飲めない、です」
「やっぱブドウだったか。良かった、俺コーヒー好きなんだよ」

 涼宮にブドウジュースを渡して、自分のコーヒーをすする。ただ、涼宮は特別ブドウが好きなようには見えない。そこは今後、反応を見て探っていくしかないよな……。

 涼宮はいまだに満月バーガーを食べている。あんまり見すぎても、涼宮が食べづらいかもしれないと思っても、中々視線が外せないんだけど。
 手元のポテトに視線を落として、ひとつつまむ。ポテトはまだじんわりと温かい。意図して意識をポテトに向けないとどうも落ち着かない。さすが揚げたてなだけある。なんていうんだったか、この、皮付きのポテト。……たしか、ジャーマンポテト。とか、どうでもいいけど。

 視線を感じて前をむけば、涼宮が俺を見ていた。目があって、言い表せない高揚感に包まれた。

「ほら、ポテトもさめちゃうぞ。美味しいうちにバーガー食べなって」
「ん」
「口にあったようで良かったよ」

 声のトーンが上がるのが自分でも分かって、ポテトをゆっくりとつまみながら、涼宮がバーガーを食べ終わるのをなんとか大人しく待つ。食べ終わると、涼宮はバーガーの包み紙を四つ折りにしてトレーの端に置いた。俺のたたんだ包み紙を見て少し眉を寄せたのが可愛い。大方、俺がたたんだ包み紙の方が角が綺麗に出ていることに、思うことがあったのだろう。最後の1本のポテトをつまんだ。

「……伊月君、」
「んー?」
「……よかったら、私のも、たべる?」

 涼宮の提案に驚く。そんな、気にしなくていいのに。……いや、違うか? 奢られることを気にしているようには見えない、ような。

「いや、それ涼宮さんの分の。あ、もしかして多かった?」
「ちょっと、」
「うん」
「手伝って、くれると、うれしい」
「なら、もちろん!」

 涼宮からのお願いだっていうことがまず嬉しかった。だけどそれ以上に、1つのケースからポテトを食べるとか。まるで恋人同士みたいなことが出来て嬉しかったのは、涼宮には内緒だ。ああもういっそ、知り合いに見られて、俺たちが付き合っていると勘違いされればいいのに。

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「……伊月君」
「んー?」
「…今日、ほんと、ありがとう」
「俺の方こそ、感謝しかないけど。ありがとう、涼宮さん」
「……私、」
「ん?」
「……ううん、なんでもない」

 涼宮をバス停まで送って、彼女がバスに乗ったのを見送ってから、俺も家に向かって歩き出した。

 最後、何を言おうとしていたんだろうか。今日のことが嫌だったようには見えなかったけど。もう少し、彼女から信頼されないことには、きっとあの言葉の先は聞けない。
 元から長期戦だというのは分かっていた。じっくり、時間をかけて、涼宮と距離を詰めていけばいい。

 まずは、入部だ。


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