long | ナノ
45
 涼宮のお弁当が残りあと3口ぐらいなのを確認して、腕時計を確認する。予鈴まであと4分か。

「バスケ部、いいやつらばっかだろ」

 むずがゆい、そんな言葉が似合うような表情で涼宮が俺のことを見るものだから、俺も自然と口許がゆるむ。

「涼宮さんが良かったら、明日からここで一緒に食べよう。一緒にここに来てもいいし、先にここに行ってくれてもいいし」
「……なんで……そんなに」
「んー?」
「……伊月君は」
「うん」
「伊月君は、どうしてそんなに良くしてくれるの」
「んー」

 どうしようか。本当のことを言うにはまだ早い。きっと涼宮は俺の事、好ましく思っているだろうけど。全部伝えるのは、彼女を捕まえてからでいい。俺無しでは誠凛で生きられないと、そう思うようになってからで。

 こんな時だけまっすぐに俺を見つめる涼宮の目を見つめ返す。ああ、やっぱり……俺だけのものにしたい。そのために、涼宮の中に残れるならどんな形でも関係ない。爪痕の方が長く残るというのなら、傷つけてでも。

「なんでだと思う?」
「……そんなの、わかんないよ」
「そうだなあ、あえて言うなら……」

 だから今はまだ、知らなくていい。

「和え物をあえてあえる! キタコレ!」

 さっき思いついたネタでわざと話をそらして、ネタ帳に開いた。もうすぐ予鈴が鳴るだろう。呆気に取られている涼宮をせっついて、彼女がお弁当箱を片すのを待って屋上を後にした。

---


 涼宮がちらちらと俺を気にしている。少しだけ懐かしい感覚だ。
 それにしても、やっぱり昼に連絡先交換と古典の相談まではできなかったな。外堀を先に埋めたかったから、予定通りといえば、予定通りだからいいんだけど。

 ネタ帳に挟んである俺のLIME IDと電話番号を書いた紙を取り出す。こんなことになるだろうと思って、予め用意しておいてもの。
 ホームルームが終わったら、これを渡して部活に行こう。この形なら、絶対に涼宮から俺に連絡しないと成り立たないから、さすがに無視は……されないと思いたい。
 肘をついて、涼宮を見る。こういうときに限って俺の方を見ていないから、視線が交わらない。まっすぐ黒板を見つめる瞳に、俺だけを写してくれればいいのに。

---


 担任がホームルームの終わりを告げた。さて、涼宮に渡すか。と思っていたら、当の涼宮がいきおいよく俺の方を振り向いくのでさすがに驚いた。しかし、彼女は何も言わない。待ってやりたいが、さすがに部活に送れるわけにはいかない。

「涼宮どうしたの?」
「……いや、あの、」
「聞いてあげたいんだけど、俺これから部活なんだ。また明日の昼で良かったら、いくらでも聞くから。ごめんね」

 おもむろに涼宮の手を取って、その手の平に俺のIDを書いた紙を押し込んだ。驚いたように悲鳴を上げる涼宮に、担任を含め、何人かが俺たちに視線を向けた。日向が呆れている。

「おい伊月いくぞ!」
「わるい日向! 今行く! ……じゃあ、そういうことだから」
「……?」

 困惑した顔で俺を見る涼宮には悪いと思いつつも、結局そのまま教室を出た。

「伊月……今どき流行んねーぞ。ああいう渡し方」
「ナンパみたいな言い方やめろ」
「ま、連絡来なかったら慰めてやるから」
「来る方にかけてくれよ……」

 西日で照らされる廊下を急ぎ足で部室に向かった。

---


「なんか伊月、今日気合入ってるなー!」
「……」
「水戸部もそう思うだろー?!」
「……」
「そういやさっき教室で連絡先渡してたな、涼宮さんに」
「マジかよ日向! じゃあ伊月は今日もしかしてあの子のハートにシュートの日?!」
「なんだよそれ……」

 モップをかけながら適当にコガからの探りをいなす。まあ、だいたいあっているんだけど。

「実際どうなんだよ伊月ー」
「んー、そうだな。来週さ、入部の説得するから協力よろしく!」
「これでついにマネージャーが! 俺は! 今! すごくうれしい!」
「それ……本当に涼宮さんは望んでるの?悪いけど、どれだけ素質があっても意志が伴わないなら」

 カントクのもっともな指摘に苦笑いを返した。さすが、鋭い。意思がないなら、居ても邪魔になるだけっていうんだろ。マネージャーをしたいだけなら、他の部活に行け、とも。

「わかってる。そこは大丈夫だから」
「ふーん……なら良いけど」

---


 いつも通り、きっちり自主練をして、上がる。着替える前にスマホをチェックすると、新着通知があった。知らないアカウント。涼宮千恵から。良かった。彼女が連絡をくれるか、少し心配だったのは事実だ。

「良かったな伊月」
「日向っ! 覗くなよ……」
「クラスであれだけやっといて報告なしってのはどうかと思うぞ」
「……応援サンキュ」
「おう」


main

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -