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35
 着信時に表示された名前と同じ人物からのメッセージが表示された、俺のものではないスマホ。

「大丈夫か。無理すんなよ。……か」

 うっかり読んでしまった通知画面を塞ぐように、スマホケースの蓋を閉じた。彼氏か、家族か、そんなところか。
 どちらにせよ、他人のプライベートを覗いてしまった。もう涼宮が俺のネタ帳をのぞいたこと、文句言えないな。
 結果的に彼女のあんな表情を見れたから、文句も何もないどころか、お釣りがくるぐらいだけど。

 涼宮といえば。
 ……彼女今日体育館に来ていたな。部活の後半、風通しのために開けていた体育館のドア横から覗いていた。
 他のヤツらは気付いていなかったようだけど、あれだけ熱心に見られていたら、イーグルアイが無くても気づくよなあ。見られていた本人としては。
 だからといって集中を欠くわけではない。そもそも彼女は15分ぐらい覗いていたかと思ったら、少し肩を揺らした後、黙って帰って行った。

 何か用があったのだろうか。そんな風には見えなかったけど。一方で、ただの見学と称するには、少し熱が入りすぎているようにも感じた。
 まさか、という予感が頭をよぎる。いや、そんなことはないか。俺も大概コガや日向に毒されているらしい。

 変な憶測をするよりも、明日、涼宮本人に聞いた方が良い。本音を言えば、彼女から話しかけて欲しいが。

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 翌日教室で顔を合わせた涼宮は、俺の挨拶を受けていたずらがばれた子供のような表情をするだけで、俺に話しかけることは無かった。彼女の方から俺に話しかけるっていうのはハードルが高いだろうということは理解しているが、できれば彼女から俺に声をかけて欲しい。そうすればきっと、他の生徒と話きっかけにもなるだろうに。

 そう思って、気付かないふりをしておいた。午前中の授業の間、転校初日と同じように、ちらちらとこちらを伺うような視線をおくる涼宮に気付いたが、やっぱり声はかけないでおいた。

 いつも通り、授業が終わったとたんに教室を出ていく涼宮。相変わらず足が早い。いや、運動部と比べるとめちゃくちゃ早いってわけじゃないんだけど、運動部では無い女子にしては早い。

 さて、俺は事務室にスマホを届けに行くか。

「あれ、お前どこいくんだよ?」
「ああ、すぐ戻るから先コガたちのとこ行っててくれ」
「おお……?」

 日向に見送られて、教室を出た。事務に行って落とし物を拾ったことを伝えれば、書類を渡される。

「拾った場所と日付、あと名前とクラス書いといてね」

 交番に落とし物を届けた時のことを思い出す。あのときは確か、こちらの連絡先なんかも書いた覚えがある。記入した紙を再び事務の人に渡した。

「これでいいですか」
「ああ、それでいいわ。じゃあ、預かっておくわね」
「それでは、失礼します」

 スマホを預けて教室に戻る。昨晩うっかりメッセージを見てしまったが、これでスマホは持ち主の元に戻るはずだ。

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 その日の午後も相変わらず涼宮からの視線を感じながら、授業を受けた。ちゃんと授業受けろよー、と思うが、ノートをチラ見した感じ、そこら辺は問題が無いようだった。変な器用さを持ち合わせているのか、真面目なのか。
 気づかないふりをするからといって、見られていることが気にならないと言えば、嘘になる。

 1日の授業から解放され、待ちわびた放課後。運動部以外の生徒はもう帰宅していると思われるような時間。俺たちだってあと少しで部活は終わりで、その後自主練に入るような時間だ。またイーグルアイの隅に涼宮が引っかかった。昨日に続いて二日目。食い入るように見られている。

 涼宮どうした。そんなにバスケに興味があったのか。
 いや、それはないかな。彼女はボールを追っているようには見えない。昨日ほどのまなざしではない。けれど、彼女は、俺の勘違いで無ければ、俺のことしか見ていない。

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 部活後、十字路で家の近い日向らと別れて歩いていると、自然と日中の涼宮を思い出した。
 あれだけ視線をよこされたら、さすがに気になる。あんな意味ありげな視線を向けられたら。さすがに、勘違いしそうになる。

――涼宮が俺のことを好き、とか。

 転校してきてから二週間ちょっと。初日の涼宮の、俺のネタ帳を見た時の反応を知らなければ、きっとここまで興味を持たなかったと思う。
 それともあれはきっかけに過ぎなかったのか。

 涼宮は良く毎日あれだけ思いつめることができる、というぐらい、何かしらと毎日戦ったり、葛藤しているのがよくわかる。あれだけ情けない表情が似合う子も、なかなかいないだろう。
 だからこそ最初は、初日に見たような笑顔か、安堵の表情を浮かべられるようにしてやりたいと思っていた。できれば俺のダジャレを聞いて、その反応として。
 反抗期だったころの俺の家族とか、バスケを遠避けていたころの日向とか。あいつらに似ていたから、少しの懐かしさを感じながら、放っておけないと思っていた。
 早くクラスになじめるように、後押しをしようと思っていた。

 だけど。

 涼宮の泣きそうに思いつめた顔とか。困り果てて途方に暮れた表情とか。一番見たいと思うのは、俺のダジャレを聞いて、笑ってくれる涼宮のはずなのに。
 困らせてみたい、なんて。俺のせいで思いつめた表情を見たい、なんて。泣き出しそうなギリギリの表情が、好きかもしれない、なんて。

 いつから俺は、こんなことを思うようになったんだろう。
 今までは、普通に女の子は笑顔が可愛いと思ってたんだけどなあ。特殊なだけか。俺か、涼宮が。
 でも、だからこそ、もしまたああやって涼宮に視線を向けられたら、縋るように見られたら、きっと、困らせたくなってしまう。こんなことを考えてたら、いけない。彼女の行動の理由が恋愛だとは決まっていない。ふと、部活でからかわれたことを思いだす。

「……なわけないか」

 単純に、何か用事があったのかもしれない。たとえそうではないとしても、どうせ今はバスケで手いっぱいだ。


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