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 毎朝授業ぎりぎりの時間に来て、昼休みに入ったらダッシュで消える。その後またギリギリに戻ってきて、放課後は掃除はしっかりしていくが、その後はまたすぐ消える。……最近の教室での涼宮の行動はおよそこんな感じだ。
 体育での涼宮の逃走劇後の俺の読みはあっていたらしく、目につく範囲ではクラス内でいじめなんかは無いようだった。彼女がシカトされているような雰囲気もない。ただ、涼宮が自分から一切話しかけないから、いまだクラスで浮いているのは確かで。そのことに関して、彼女の心情的にどうかはわからない。なんとなく、気にしていそうだと思うのは、俺の読み違いか、願望なんだろうか。

 担任にも今朝ほど、「なんとかしろよ風紀委員」と言われたところだ。それを言うならクラス委員に言ってくれ。
 だけど、じゃあってクラス委員のやつらが俺より先に、あの涼宮の表情を見るのかと思うと気にくわない。転校初日の早朝、校庭で俺のネタ帳で表情をやわらげた涼宮。どうしても、あの表情がもう一度見たかった。その反応を、俺の生のダジャレに対して返して欲しかった。そのためにも、もっと涼宮との時間が必要だ。

 それに……バスケに比べたら涼宮はわかりやすい。反抗期で拗らせていた姉を、見ているようなものだから。

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 トリプルスコアで負けた、インターハイ都予選。まだたった数カ月前のこと。
 霧崎戦で木吉という大黒柱を失った後、俺が崩れていなければ、もしかしたらベスト4より上の戦績が残せたかもしれない。そうしたら、もうすぐ始まるウィンターカップにだって、出場できていたかもしれない。
 
 誰もいない廊下で、思い切り壁に握りこぶしを叩きつける。こぶしから広がる痛みが、これが現実だと俺をあざ笑っているかのようだ。毎日、どうしようもない悔しさと後悔にさいなまれて、気が狂いそうになる。もういっそ、そうなってしまった方が、楽じゃないかと思うほどに。

 いつだって冷静さを欠いてはいけなかったはずだ。気を抜いていい試合は一つもないことを、わかっていたはずだ。誠凛の、うちのチームの中で一番長くバスケをやっているのは俺なのに。負ける試合だって今までだってたさくん経験してきたはずなのに。中学の敗戦から何も学んでないのか。立ち直り方も、メンタルの保ち方も。
 霧崎との試合も、その後も、動揺といら立ちと怒りと――そうやって感情に支配されて、試合に負けた。

 日向がスリーの練習を頑張っているのは知っている。水戸部も新しいシュートの練習をしているし、土田やコガだってそうだ。カントクだっていつも全力で俺たちを支えてくれている。
 俺は、副キャプテンだ。チームの司令塔だ。全ての攻撃の起点となる位置にいるんだ。中学の時のような結果にしたくない。高校では、バスケで一番になりたい。なにより、また日向とバスケができるのに。あいつが、またバスケットボールを手に取ったのに。

 ……その為には、インターハイと同じままではだめだ。

 俺にはイーグルアイがある。だが、視野の広さを活かすには技術も体力も連携も必要だ。そもそも俺が視界情報をうまく処理できなければ、何にもならない。そして、何より感情を支配できるようにならなければ。

 そのために、目の前の練習を疎かにするな。立ち止まっていた足を体育館に進める。一人になると色々な感情に押し潰されそうになるが、自分の中の大事なものを確かめるには、ちょうど良い。
 体育館に一歩足を踏み入れれば、突然明るくなった視界に目を少ししばたたかせる。こいつらと一緒なら、できると信じてる。

「はい、休憩終わり! 次、ゲームやるわよ! 集まって!」

 カントクの声に、頭を部活に切り替える。彼女の周りに集まる、一人かけたチーム。俺にもっと技術があれば、欠けなかったかもしれないチームメイト。

 さあ、練習に気合を入れろ。来年、全国の舞台で戦うために。

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授業後、日向と連れ立って体育館に向かっていると後ろからコガたちが追い付いてきた。そこでふと何かに気付いたように日向が俺を見た。

「伊月、最初のときほど涼宮にかまってねーようだけど、フラれたのか?」
「えっ伊月好きな子いるの?! だれ? クラスの人?」
「いや、ほら例の転校生。伊月が最初連れてくるって言ってた」
「あー! 噂の!」

 最近、涼宮とはあまり話していない。いや、元から会話なんてあまり成り立っていないけれど、挨拶以外はできていないのが現状だ。もう転校してきて2週間だが、一向にクラスになじむ様子が無い。それを彼女が気にしない性格であるのなら問題は無いのだが、明らかにそのことで涼宮自身も困っているようなそぶりをみせるものだから、つい気にしてしまう。

「いや、多分腰据えて長期戦じゃないと無理そうなんだよな……」
「伊月がガチだ……! フラれたのに……!!」
「だからそういうんじゃないって言ってるだろ。コガはなんでそんなに恋愛にくっつけたがるかな」
「その方が面白そうじゃん! な!」
「俺に同意を求められても…なあ、水戸部」

 土田と水戸部をおいて一人盛り上がるコガを置いて、先に歩き出した日向の後を追いかける。

「話振ったくせに置いてくなよ日向」
「振ってからお前が涼宮の泣き顔が好きとか言ってたこと思い出して」
「そこまで言ってない! 困り顔だって!」
「一緒だろ」
「そもそも好きとかそういうんじゃないって言ってるのに何で皆その前提で進めるんだよ」
「その方が面白いだろ」
「日向もコガと一緒かよ……」


 酷い裏切りを受けた気分だ。ジト目で日向を見たがガン無視された。しょうがない。溜息を吐いて校舎を出て、部室に向かった。



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