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32
「で、いつになったら伊月君はそのマネージャー候補の子を連れてくるのかしら」

 言外にさっさとつれてこいというメッセージをにじませながら、カントクがにっこりと笑った。部活終わりに突然投げられた話題に、前髪をかき上げる。朝から降り続けている雨は、依然として空を曇らせたままだ。

「どうなんだよ伊月、実際。今日も盛大にフラれてたじゃねーか」
「じゃあ日向も手伝ってくれよ」

 実際に日向に手伝わせる気なんて全然ない。そもそもダジャレの事だっていうつもりじゃなかったのに。
 涼宮は大人数で押し掛けるより、一対一で接せられることのほうが好むはずだ。

「その子、そもそもマネージャーに向いてるの?」
「あのてんぱり具合をみていると何とも言えねーけど」
「適性は分からないけど、入部したら、一生懸命やってくれると思うよ」

 今日の体育で、雨の中どこかに逃げた涼宮を思い出す。別にバスケ部に入らなくても、友達づくりのきっかけになればと、日向たちとの昼飯に誘った。
 でもそれがきっかけで入部してくれたら万々歳だ。涼宮の人目を気にする性格なら、きっと人一倍努力するはずだろうから。

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 それは少し前、涼宮が転校してきた日の部活終わりのことだった。

「なあなあ日向! 伊月! お前たちのクラスに来た転校生女子だって?!」
「相変わらず情報早いなーコガ」
「可愛い? どんな子?」
「んー……普通じゃね?」
「まあ日向は好きな子がいるもんな!」
「黙れ」

 物理的にコガを黙らせている日向をしり目に、涼宮のことを思い出す。
 着替えの手を止めて俺の方を見ている土田と水戸部が俺の言葉を待っていた。

「そうだなあ……困っている顔が似合う感じ?」
「うっわ伊月サイテーだなお前」
「引くわ……」
「好きな子いじめる小学生かよ」
「そんなんじゃないって」

 水戸部からも軽蔑の視線を受けた。散々な言われようである。一人さっさと着替えを進めていると、コガが「結局よくわかんねーじゃん」と文句を垂れた。

「つかお前! だからか!」

 上半身裸のまま俺を突然指さす日向に、思わず眉間にしわ寄せた。何のことだ。どうやら疑問を持ったのは俺だけではなかったらしい。俺の疑問を土田が代わりに日向に投げてくれた。

「涼宮が自己紹介しようとしたときに、あろうことかこいつ、ダジャレ言って遮ったんだよ」
「え、伊月ひどいなお前」
「そんなに困り顔見たかったのかよ」
「普段から場所考えずにダジャレ言うしな……」

 シャツを羽織った日向が「いつかやると思ってたわ」と付け足す。いや、タイミングはまずかったかもしれないが、ダジャレは問題じゃなかったはずだ。
 日向はダジャレセンスが少しずれているから、あまり理解を示してくれないが。

「涼宮感極まってなかったか?」
「お前の目は節穴か!」
「イーグルアイだけど」
「そうじゃねーよ! 木吉かよ!」
「それになー、授業中に俺のダジャレノートに興味を持ってくれたんだぞ」
「お前授業中なにやってんだよ」

 着替えの手を再開させた土田たちを待ちながら、部誌を開く。今日の練習と、各々のコンディションを思い出しながら、気付いたことを書いていった。後ろで続く会話を適当に聞き流す。

「伊月ってなんでこう……ダジャレだと残念なんだろ。なー水戸部」
「聞こえてるぞコガー」
「伊月そっち終わったか」
「もう少し、すぐ終わる」

 喋りながらも着替え終わったチームメイトたちがロッカーを閉める音を聞きながら、今日の分の部誌を仕上げる。こんなところか。
 連れだって部室を出ると、外でカントクが待っていた。そういえば俺が待たせていたんだった。

「伊月君話って何?」
「うちのクラスに転校生来たの知ってるだろ」
「え、もしかしてバスケ関係者?」
「はは、じゃなくて。慣れるまで一緒にお昼どうかなって思ってさ。女の子だから、カントク居たら男の中に一人じゃなくて、安心するだろうし」
「それはまあ、いいけど」
「カントク面倒見いいからさ」
「伊月君持ち上げ方が露骨すぎ」
「本心だって」

 俺たちの会話を聞いたコガが、女子が来るって! とテンションをあげている。実際一度断られているし、誘いに乗ってくれたとして、それがいつになるかわからないが……。俺としては、どれだけ時間がかかっても涼宮を連れてきたい。

「じゃあ今日のお昼はどうしたのよ。いつもより遅かったけど、伊月君と日向君、二人だったじゃない」
「あー……まあ、それは」
「思いっきり逃げられたんだよ。伊月が声かけたら」
「あれってやっぱり俺のせい?」
「日向どゆこと?」
「今日の昼も伊月が一度転校生に声かけたんだけど、嫌って言って教室から出てった」
「俺、伊月みたいなイケメンでもフラれることがあるって聞いて安心した……」

 失礼なことをのたまうコガに、苦笑する。別に俺だって普通の男子高校生だ。告白されることも無いわけじゃないが、皆俺の趣味を知ったとたんに去っていくんだから、コガの評価があっているのかどうかなんてわかりやしない。

「それでその子がマネージャーに向いてたりしたら、最高なんだけど」
「俺は向いていると思うけどな」


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