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気にする




「トリシャ……」


ゆっくりと近づく彼の身体、視界いっぱいに写る彼の顔。何をされようとしているのか、本能的に理解して――


「っや」

「ッ、」


初めてのデートだった。好き、と言ったわけじゃないし言われたわけじゃなかったけど、互いに気持ちは同じ方向を向いていたように思う。ずっと彼一人を見続けていて。

けれど、キスしようとした彼を拒絶して、挙句の果てには逃げ帰ってしまった私。別に彼が嫌いとかそういうわけじゃなくて、ただ突然すぎて、びっくりしちゃったっていうだけ。その後はなんだか自分が恥ずかしいやら申し訳ないやら気まずいやらで逃げ帰ってしまった。


「ていうかあほだよね、あほ以外の何者でもないよ私ー」

「うん、確かにトリシャ今回はあほだったね」


片手に日刊預言者新聞を持ちながらオートミールをつつく、親友であるはずのこの少女は私を一度も見ずにそう言い放った。え、それ言っちゃうの?今結構私傷心状態なんですけど。


「てゆうかあんたも物好きよねードラゴンとクイディッチにしか興味がないって名高い、あのチャーリー・ウィーズリーが好きなんて」

「ちょ、声大きい」

「いいじゃない、別に。今や周知の事実なんだから」

「そうそう、君はあんなグリフィンドール生ではなくレイブンクロー生らしくレイブンクローの誇る、主席であるこの僕と、」

「またあんたなの?いい加減しつこいよ、ねぇトリシャ」

「あーまあ、うん」


私の向かい側に当然のように座った彼は、私に気のあるようなことを言うけれど、実際は私の隣に座っている親友のことが好きなんだと思う。たぶん嫉妬させたいんじゃないかなぁと私は考えている。
現に今だって隣で勝手に二人の言い争い(愛情表具?)はヒートアップしている。始まりはいつも私についてだけど、ね……


「はあ、」


***


そしてチャーリーを避けに避けまくって一週間。まあ今まで意識的に彼を視界に入れていたわけだから(学年も寮も違うんだから仕方ない、)、意識的に見ないようにすれば会わないわけで。と言っても逆に見つけてしまって(相手は背はそれほど高くないものの、頭は目立つ赤毛だ)、結果的に会わなくて済んだのだけど。
時間が経てば経つほど気まずくなると言うもので。今ではどうやってこないだまでしゃべっていたのかさえ思い出せない。むしろ話せていた自分が不思議だ。

そう思っていたはずなのに、なんたる失態。しまった、朝早く目が覚めたからといって朝食を早くとろうとか思うんじゃなかった。大広間に入ってみれば、嫌でも目につく燃えるような赤毛、チャーリー・ウィーズリー。
こっそりばれないように横を通り過ぎようとしたのになんでかな、さすがクイディッチ選手。視界が広いらしい。「トリシャ、」と私を呼ぶ声が聞こえた。あーあ。

私に向かってこっちに来いと手をふるチャーリーに私は仕方なく、そちらに向かう。一歩一歩がとても重い。というかなんでそんなに爽やかかなあ。


「トリシャ、」

「……チャーリー、」

「今日これからクイディッチの練習があるんだけど、見に来てくれないかな」

「え?」


驚くほど爽やかな笑顔でクイディッチの練習観戦に誘ってくれたチャーリー。どういうこと、気にしてたのは、私だけ?


「あの、チャーリー……」

「どうしたの?」

「怒ってない……?」


「何を?」と首を傾げた彼は本当になんのことだか心当たりがないといった様子。小さく「この間のホグズミードのこと」、と告げれば驚いたような顔をされた。


「もしかしてトリシャ、俺がそのことで怒ってると思ってたの?」

「うん、だって私逃げちゃったし……」

「そんなわけないだろ、」


グッと引き寄せられて、気づけばチャーリーの腕の中で。「人がいる、」と言っても「見てないよ」と返された。恥ずかしくて顔をチャーリーの胸板に埋める。


「年上の俺が怒るわけないって。ちゃんとリード出来なかった俺が悪いんだから、それで怒ったらただのガキだ」


優しく耳に口づけられて、ここが大広間だとか皆が見てるとか、そんなことは全てどうでも良くなった。



気にする
(だからそんなことは気にすんな)

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