染める
俺が求めてるもの。俺好みになろうと努力して、俺色に染まっていく、トリシャ。
「オレが好きなもの?そうだなあ」
「ドラゴンとかさ、そういったもの以外で」
「急に言われても…」
「なんでもいいの!教えてよ」
うーんと唸ったまま、チャーリーは考えるような素振りを見せた。なかなか答えようとしないチャーリーにトリシャは逃がさない、と言わんばかりに詰め寄った。
トリシャに詰め寄られて、チャーリーは困ったように笑う。
好きなもの。そんなの決まっている。自分が一番好きなものは、今目の前にある。
「……クイディッチ?」
「それも知ってる」
「なんでもいいっていったじゃないか。クイディッチもだめなのかい?」
「だーかーらー!私が知らないチャーリーの好きなものって言ってるじゃん!」
「それは初耳だよ」
落ち着いた調子のチャーリーの声に、どうしたものか、とトリシャは悩む。
好きな人は目の前にいる。自惚れるわけではないけれどけっこう仲が良い方だと思う。けれどいかんせんチャーリーは鈍い。クイディッチのチームキャプテンとしてチームメにートの些細な言動から彼らの心情を察して的確な指示をだして、グリフィンドールを勝利に導いたり、彼らの悩みを解決したりと鋭い割りに、自分のことに関してはとことん鈍いのだ。そんな彼はきっとほおっておいたら押しが強い女子に盗られてしまう。
だからこそ、少しでもチャーリーに近づいて、チャーリー好みに、もういっそチャーリー色に染まるくらいの気持ちでいないといけないんだ。そうやって暗に予約しておかないと、伝えないといけない。
はあ、と息を吐いてトリシャはチャーリーを見つめた。…いや、トリシャ本人は見つめたつもりでも、端から見れば睨み付けているようで、チャーリーはどうしたものかと考える。
「……トリシャ?」
「あのさ、チャーリー。本当なんでもいいからなんかないの?」
「そうだなあ」
「ねえ」
やがてチャーリーは何か思い付いたように少し微笑んだ。そんなチャーリーの笑顔に当然トリシャはくらっとするが、それでもなんとか踏み留まる。
「なんでもいいんだね?」
「なんでもいいって言ってるじゃん!ねえ、早く!」
「トリシャ」
「え、」
「だから、トリシャ」
「な、な、な、」
「俺のことをいつも一番に考えてくれて、俺の好みの女の子になるように頑張ってるトリシャが、俺は好き」
どうやら鈍感だったのはチャーリーではなく、トリシャだったようだ。
トリシャが知らなかった、と呟けばチャーリーはだってトリシャ鈍いから、とにっこり微笑んで返した。
気づけばもうあなた色。
染める
(ねえ、トリシャ。俺だけの、お姫様)