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君の全てが
―――どうしたのですか?

焚き火がぱちぱちと音を立てる。
皆が寝静まった後、なかなか寝付けなかった私は、頭上高く、木々の隙間から見える星たちを見上げていた。
空で瞬く星達を見てはあ、とため息をつく。私のことなんかおかまいなしにお構いなしにいつも輝いている。きっとそれなりに、(星は星なりに、)思うことはあるんだろうなあ、なんて考えるほど子供じゃないはずなのに、
私の耳に心地よい、懐かしい声が響いた。

「どうしたのですか?」

ずっと聞きたかった声。あの日に失われてしまったと思っていた。声と同時に空をうめた影に焦点を合わせる。焚き火の炎を受けた緑の髪はとても神々しくて。けれどその炎の色に、つい先ほどまで考えていたことを思い出してしまう。

「どうしたんですか、トリシャ?」

相変わらず優しいその声と瞳に、思わず視界がにじむ。

「隣に座ってもいいですか?」

そんな事聞かずに座ってしまえばいいのに。
でも甘えられない。甘えちゃいけない。
ゆっくりと首を振った私に、まるで私がそうすることを知っていたかのように、―――瞬顔が曇ってしまったけれど―――次の瞬間にはもうやさしい笑みがひろがっていて。

ただ、少しだけ心配そうではあったけれど。

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甘えちゃいけない

頭ではわかっていても気持ちはついきてくれない。
思わず伸ばした手がイオン様の服のすそをつかんでいて、自分がした事に気付いたときはもうすでにイオン様は私のほうに振り返っていた。
全てを受け入れてくれるその瞳に吸い込まれそうになる。

「いいんですよ。」

決してなにが、ともなにを、とも言わないその優しさに目尻が熱くなる。

そしてイオン様は私の手を自分の手で包み込み、服から離す。思わずびくっと反応した私にイオン様はもう一度かがみこんで、今度は私と目の高さを合わせてくれる。

「悩めることが、生きている、存在している証なんですよ」

視界が揺れて頬を涙が伝う。

「ルークに何か言われたのですか?」

こくりと頷く。ああ本当に情けない。でももうイオン様にすがって泣きたい。

「き…きらいだって…うっ…くっ…」

「トリシャはいつも頑張っているのですか、たまにはおもいきり甘えて、おもいきり泣いていいと思いますよ?」

「イオン様ぁ…!」

それからしばらく泣き続けた。後から考えてみればとても恐れ多いことだったんだけど…あの時はただただイオン様の優しさに甘えていたかった。

私が泣いている間イオン様はずっと私の背中をさすってくれていた。何も言わずに。その無言の温かさに私は救われた。
段々落ち着いてきた私ははっとして頭を上げる。

私ってばなんてことを…!

「落ち着きましたか?」というイオン様の声が目の前でして、目の前にイオン様がいて、アップのお顔があって…

顔を真っ赤にし、口をパクパクさせていた私にイオン様が…




「僕は好きですよ」

なんて仰るから恥ずかしさの余りイオン様の肩に顔をうずめる。

「なに…言うんですか」

「僕はトリシャのそういうところが好きなんです。」

つい顔を上げて、真顔で語るイオン様のお顔を見つめてしまう。

「ルークが嫌いだと言う、トリシャのそういうところが、僕は好きなんです。」

どんどん顔が火照っていくのがわかる。イオン様っ!!

「…どこが嫌いって言われたか、私言ってないじゃないですか」

顔が熱くて、耳まで赤くなっている自信がある私は思わず顔をそらす。照れ隠しにちょっと拗ねたように言ってみれば、突然イオン様の顔が近づいてきて、耳元で囁いた。ふっとかかった息がくすぐったかったけれど、今はそんな場合じゃない。

「〜〜〜もう、イオン様のばか」

素直じゃない私は憎まれ口をたたくだけ。

クスクスと笑っているイオン様。


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だってあんなこと言われちゃったら…にっこり笑って


「僕はトリシャの全てが好きですから」


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