口づける
「ねぇ…」
「ねぇエド?」
「あ?なんだ?」
頬杖をついたままトリシャはずいと机の向かい側に座っているエドに近づいた。呼ばれたから顔をあげて見ればトリシャの顔。思わずエドは驚きのけ反った。
「いいなぁ」
言いながらトリシャは更にエドに近づき、(もう机の上に乗っていると言った方が正しいぐらいだ)手を伸ばす。その後きちんと結ばれたみつあみに羨ましそうに触れた。
「いいな、この綺麗な金髪」
「…別に」
照れたように顔を背けたエドはその際に気を利かせて部屋から出て行こうとする弟と目があった。
(やれやれ、兄さんてば素直じゃないんだから)
(グッジョブ、弟よ!)
微妙な位置関係と言えどトリシャが近くにいてしかも二人きり!と喜んだエドだった。
ところが、
「えっアル、ちょっと待ってよ!」
トリシャが"わざわざ"気を利かせてくれた弟を呼び止めた。
ギシリ、とテーブルが唸る。それもそのはずだ。もう机の上に完全に乗っていたトリシャはエドの視線の先にいるアルに気がついた。そしてアルの方へと振り向く際に膝立ち―それも運の悪いことに机の端の方で―していまいバランスを崩した。
「きゃっ!」
「トリシャッ」
「おわっ」
―ガッターン!
アルが危ないと言おうとしてトリシャの名を呼んでいる間にも彼女は―運が良いのか悪いのか―エドの上に倒れ込んだ。
「…」
男としてどうかとは思うが満更ではないかもしれない。アルの視線がエドには痛かったが。
(ったく兄さんは)
今度こそ弟は出ていった。
そして残された二人は
口付ける
(これだから世話のかかる兄を持つと大変だ)
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