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トリップして雪麗さんに拾われる

どれぐらいそうしていただろう。
ゆっくりと瞼をあける。
赤い空をバックに赤い太陽が二つ、私を見つめていた。

「ーーーー」

少しの驚きと、同情を含んだ声だった。どうやら雪に溶け込むように白くて、でも、真っ赤な瞳を持った女性が、私を見下ろしているようだった。
声がききとれない。何をいっているのだろう。
力が入らない。口を動かせず、ただ彼女を見つめ返した。

「ーー、ーーー」

また何事か彼女は口にして、そっと私に触れた。心地よい温度。
寂しそうに笑った彼女の腕に抱き締められる。
もう、これで、死ぬことは無さそう。
彼女の腕の中はひどく安心した。心地よい彼女の心音が響く。もう、瞼を一秒たりとも開けていられなかった。

「あんたも独りか。妾と一緒においで」


---



まぶしさを覚えて目を開けると、木目の天井が目に入った。

「どこ…」

やたら重い掛布団を押しながら体を起こしてあたりを見回す。なんというか、純和風な部屋である。
障子の向こうから、ベンベンと弦楽器の様な音が聞こえてくる。なんでこんなところにいるんだっけ。パジャマの肌触りもいつもと違う。ざらざらしている。
感じる山のような違和感に起き上がろうとするも、節々がまるで何日も動いていないかのごとく軋む。

なんなの、これ。

やっとの思いで体を起こす。着なれない違和感の原因は、いつものパジャマではなく、浴衣の様なものを着ていたかららしいことに気付いた。ついでに、布団を押しのけた、ぷにぷにした手が目に入る。そこで一気に頭が覚醒した。

そうだ、私は雪の中で、なぜか子供のような姿形で、死にそうになっていたんだった。
夢ではなかったの?
ずっと雪の中にいた。死を覚悟するような夢だと思ったのに。どうして…。

そこでまた、思い出した。そうだ。やけに冷たい、赤い太陽のような瞳を持つ人に抱き上げてもらったような…。
そうか、ではここは、あの体温の低いの人の家…になるのかな。
そう、まるで、雪女の様な、真っ白の着物を着た人の。

ふと、それまで続いていた弦楽器の音が止まった。障子が開き、丁度思い浮かべていた赤い瞳が姿を現せた。

「おや、目が覚めたのかい?…意識ははっきりしているようね」

こくり。なんとか一つうなずく。
あの時は寒くて何もできなかったし、考える余裕もなかったけれど、どうしてこの人は助けてくれたのだろう。

ああでも、その前にお礼を伝えなければ。この人がいなければ、私は死んでいた。
そう思うのに、顎が動かない。あまりにも、きれいな人を前にして。

私の表情を不安ととったのか、彼女はわたしの前に腰を下ろすと、そっと頭をなでてくれた。つまらなさそうな、不機嫌そうな顔をしているのに、えらく優しく、それでいて冷たい手。
思わず肩が揺れる。

「そんなに怖がらないで。妾は雪女の雪麗。あんたはなんていうの?」

 
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