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帰り道を歩いていたら、後ろから不意に肩を叩かれた。ナンパか、新興宗教か。さっきも一度声をかけられてイライラしていた私は、全力でガンをとばしながら振り返ってしまった。後から思えば、落とし物だったり道を聞きたいだけだったら申し訳なかった。実際そうではなかったのだが、睨むべき相手ではなかったのは確かだ。

「失礼。突然で申し訳ないが、ちょっと俺を罵ってくれないだろうか」


彼は、睨むと喜ぶ人種でした。


「…………は?」


私の頭は、しばらく動きを止めた。
「……いやです」

こういう頭のおかしい人に関わってはいけないと私の警報装置が叫んだので、状況を理解した瞬間踵をかえした。
が、彼は次に驚くべき言葉を発した。

「加藤イズミ」
「え」
「立海大付属3年F組加藤イズミ。元バスケ部所属。風紀委員会所属」

加藤イズミとは私のことである。すなわち彼は狙って私に声をかけたのか。これはつまり、彼はストーカーさんなのだろうか?
まぁどっちにしろ危険人物に変わりはないので、私は止めた足を動かし始めた。

しかし結局、彼は駅まで付いてきてしまった。
途中勇気を出して振り返って、付いてこないでほしいと言うと彼は美しく微笑んでお気になさらずと言った。残念なイケメンとはこういう人間のことだ。お気になさらずじゃねーよくそ!いや、いやいや取り乱すものか。ここで彼を罵倒しては結果的に彼の思う通りになってしまう。

こうして私は彼を罵りたい気持ちと彼に言われた通りにしたくないという気持ちの間で悩むはめになったのだ。不毛である。

とりあえず家まで付けられたくはないので反対方向のホームで電車を待つことにする。そう、私は彼を舐めていた。

「どこか寄り道か?」
「え?」
「加藤の家なら逆方向で5駅、○×駅だろう?」

なんとまぁこれでは本当にストーカーだ。私がぽかんとしていると、どうした?などと聞いてきた。平然と言わないでほしい。このストーカーめが!
丁度よく私の乗る予定だった電車の扉が閉まるところだったのでそれに乗ってしまうことにした。勢いに任せて彼に一言言うのも忘れずに。

電車に乗り込んでから、彼が付いてきていないようだったので安心した。落ち込んでくれていたら助かるなんて都合のいいことも考えた。だが私は、ホームにいる彼を見て後悔することになる。


「付いてくんじゃねーぞ変態」
彼女がすれ違い様に低い声で発した台詞は彼の脳内に甘い余韻を残した。
彼は電車に運ばれてゆく彼女をうっとりと見つめた。目に焼き付けるために細い目をしっかり見開いて、顔を青くする彼女を見続けた。

「やはり俺の目に狂いはない」


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