これが、今日の朝の話。
ところが、彼は昼休みに私のところへやってきた。
「あっれー柳くんなんでここにいるのかなぁ」
「すまない……俺がいないことを不審に思った仁王に助けられた」
用意してきたような答えに心の中でダウトー!と叫びつつとりあえず会話を進める。
「放置プレイは好きじゃないの?放課後いこうとおもってたんだけどなー」
「いや申し訳ない。お、お仕置きでも何でもしてほしい」
「ふーん」
私が興味なさそうに言うと彼は迷いなく床に両手をついた。
「すまない」
私はちょっとした出来心で柳の肩に足をかけてみた。嬉しそうな顔してんじゃねーよむかつくなぁ。まあすぐにそんな顔できなくなるか。
「あのねぇ柳くん、君にはMとして圧倒的に足りないものがある」
柳はまだわくわくしている。タフだ。
「羞恥心だよ。誰が進んで恥ずかしいことする人見て喜ぶわけ。恥ずかしくて嫌なのに、嫌なはずなのにあんまり嫌じゃないっ……て顔がいいんじゃない」
柳はさすがにちょっと引いて「ほ、ほう」とか言ってる。
柳の肩から足を下ろして、一旦手を貸して立ち上がらせた。
「そういえば、仁王くんが助けてくれたって?」
「あ、あぁ。あいつも鍵を持っている」
「はいダウトー」
「なんだと?」
「だって、変だよね?」
私はわざとらしく首を傾げてみせる。柳が生唾を飲んだのがわかった。
「なんで柳があの教室にいるって思ったのかなぁ?普段あそこでなにかやってるの?」
「……仁王から電話が来たんだ」
メールと言わないあたり、自分でかけたと言わないあたりさすがである。後ろ手で結ばれて目隠しされては電話に出るくらいが精一杯だろう。
だが、甘い。
「ダウト。これなーんだ」
私は自分のポケットから柳の携帯を取り出した。
「なっ」
あの時ネクタイと鍵と一緒にいただいたのだ。
「それに私仁王くんとは友達なんだぁ。だから仁王くんは私が放置してること知ってたよ」
「友達だと?いつの間に…」
「うん。さっき」
私がにっこり笑うと柳は顔を歪めた。
「で、誰が助けてくれたんだっけ?アミちゃん?ヨウコちゃん?」
「……見たのか、携帯」
柳の携帯には私の予想通り、いろんな女王様、もとい女の子といちゃこらする約束のメールが残っていた。パスワードの解読はさっき友達になった仁王くんがやってくれたわけだが。なんかわかりそうだなと思ったらビンゴだった。
「みんなこそこそSに目覚めさせちゃった女の子たちなんだよね?なんで私だけこんなおおっぴらにやり始めたのかは知らないけど。もう3年だからかな」
「それは俺がお前に本気だからで」
「はいはいダウトダウト。本気な人は口説きながら他の女抱きませんー」
「そんなことはしていない」
「今だって、やることやってからのこのこ来たんじゃない」
「なにを根拠に言っている」
「だって時間がさぁ。サクラちゃんが行ってから随分たってから帰ってきたよね」
柳の顔色が明らかに変わった。
「お前……」
「あ、ばれちゃった?うん、私が、鍵渡して柳を助けてって言って、って仁王くんに頼んだ」
「なんでお前そうまでして」
「柳くんのことを好きになってしまったと同時に私の中の禁断の扉が開いてしまいました。だいたいね、Mのくせに主導権握ろうなんてのが気に食わないんだよね。だからもう頭上がんないようにしてやろうと思いまして」
「じゃ、とりあえず」
私は柳に携帯を返した。
「女王様たちみんな切って。条件はまず、私のせいにしない、後腐れなくすっぱり切る。はいどうぞ」
これですっきり、大団円である。みんな幸せ。
「なぁ、何がお前を目覚めさせたんだ?」
「柳って何しても嬉しそうじゃない?そんな柳くんが嫌そうな顔するとこがみたいなぁって」