BOOK | ナノ

「はぁ……」
最近、いつも近くに柳がいる気がする。これはいわゆるノイローゼであろうな。
「体調がすぐれないのか?」
「頼むから人間椅子って言いださないでよね」
また同じ展開になりそうだったので先に言っておく。そもそも体調悪いと人間椅子って意味わかんないし。お前やりたいだけだろ。

「お前、顔色が悪いな」

ぼんやりしていたら鼻先数センチのところに柳の顔があって私はびっくりして慌てて仰け反った。仰け反ったら、椅子ががたんとバランスを失って、あ、やば、なんて思ったけどもうどうしようもなくて来たるべき衝撃に備えて目をつぶった。
が、それは来なかった。どうやら柳がしっかり腕を掴んでくれたようだ。
「あ、ありがと」
「いや、それよりお前、熱があるんじゃないか?」

柳は有無を言わさず私を抱きかかえた。お姫さまだっこってやつだ。これって、されるのがこんなに恥ずかしいなんて思いもしなかった。
さすがテニス部、私なんぞは軽々運べてしまうようで、すいすい保健室まで運ばれてしまった。

もしかしたら私柳のことが好きかもしれない、と彼のきりっとした横顔を見上げながら思った。

保健室に先生はいなかった。私をベッドに降ろし、大丈夫かと聞く柳に私はもう一度お礼を言おうとしたが、カーテンを閉めて自分もその内側に入り、ベッドの上に座った彼を見て、なにか変だなと思った。

柳はさっきのように私に顔を近づけて、私の顎を持ち上げた。
「俺は本気でお前を思っているんだ。いつもお前には躱されてしまうからな、わかってもらうにはこれが一番いい方法だ」
そういって柳は私の目を見た。そういうわけで保健室まで連れてきたのか。ふむ、こいつは最低だ。要はやりたいだけじゃねーの?

ときめき返上!よし。

「私、ここじゃやだなぁ。いつ人が来るかわかんないじゃん」
「そうか。ベッドがあるからと思ったのだが、そうだな」
柳は内ポケットから一本の鍵を取り出した。ふーん、こいつ、慣れてやがるな。

「ここなら誰も来ないだろう。……イズミ」
私はそっと柳のネクタイに手をかけた。わくわくしてんじゃねーぞこの変態。ほどいたネクタイで柳の目を覆った。もっかい言うけどわくわくすんなって!
「あのさ、手しばれるようなもん持ってない?」
「お、おお。そうだな、俺のブレザーのポケットに予備のネクタイがある」
私はそれを探し出し、ついでにもうひとつふたつくすねて、柳の手を後ろ手に結んだ。この前調べた一人じゃまず解けない縛り方だ。なぜそんなの調べたか?健気な乙女心じゃないか。

縛り終えると私はそっと柳から離れた。そして不安そうに身じろぎする彼を残して、その教室を去った。去り際に鍵を閉めたのは誰かにあんな姿を見られないようにという私の優しさだ。誰かに見つけてもらわなきゃ出れないとかいう説もあるけど。



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