08


「ほら」

「……っ」

「よーしよし。恐い人はもういねぇよー」



優しく抱き締めてくれるタマさんの体温を感じる。それだけで体も気持ちもホッとする。

タマさんは本当に何者なんだろう。あぁ、そうだ。彼は魔法使いだった。



「……殴ったんですか……?」

「あ?」

「……コンビニでの、あの人のこと……殴ったんですか?」

「まぁな。ムカついたし」

「……痛かったでしょう?」

「アイツが?」

「タマさんが、です」

「タマさんは慣れっこだから大丈夫」



細身のタマさんだけど、こうやって密着してみるとやっぱり大きい。

ドキドキする。この感覚も初めて。



「それでも、慣れてるとしても、痛いものは痛いじゃないですか」

「そーか」

「はい」



タマさんのぬくもりに包まれて、声が低く響いて。

誰か他人の体温を感じられるだけで、それだけで幸せだと思える。……私には夢のようなことだったから。



「……タマさん……」

「どうした?」



抱き締められている体制から、タマさんから少し距離をとった。それでも手を伸ばせば簡単に届く距離。



――もう、私はこのまま、




「……私を、殺して……」




死んでもいいと思った。
このまま、タマさんの腕の中で眠ってしまいたい。

もう、泣くことに疲れたんだ。お願い、お願いだから。もう息が出来ないの。



「雪乃」

「……っ」

「雪乃、泣くな」

「止まらないんですっ」

「よし、じゃあ泣け!いっぱい泣いとけ!」



うわああん、と泣き喚く私はどれほど滑稽なんだろう。

タマさんが微笑んでいるから余計恥ずかしい。
きっとタマさんからしたら私はまだまだ子供で、悩みなんてちっぽけなものなのかもしれない。



だけど、本当に辛いんだ。
生きていくことがとても難しいんだよ。誰しも辛いことがあって一生懸命に生きているんだろうけど、私にはそんな強さない。



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