07


この男性が私を性的な目で見ているのが分かる。父と一緒。

こ、この、この人も、わ、私を、凌辱、するの……?嫌だ嫌だ嫌だ、イヤダ。



もう、あんな思いをするのは嫌だ。



「今度はいくらでくれんのー?ぎゃははは」



恐くなった私は走り出した。コンビニを飛び出して、次はどこに行くつもりなのかは分からないけど、これ以上あの人に見られ続けたら、また、おかしくなる気がした。


繁華街は昼でも賑やか。
家の人から隠れるには人がたくさんいる場所の方がいいのかなって足りない頭で考えて来たんだけど……。

元から探してくれるはずがない。私の家族は、私がいなくなったことに気がついているのかも分からない。



操り人形は、操る人間がいないとゴミ同然なんだ。



「…………」



そう思うと、もう足は思うように動いてくれなかった。進むことも戻ることも出来ない。

気付けばフラフラと昨日、タマさんに声をかけられた小汚い階段に立っていた。



……タマさんには失礼なことをしてしまった。せっかく私なんかを飼おうとしてくれたのに。


私に“利用価値”はあったのだろうか。
全然思い付かないし、もしこのままタマさんといて最後に彼にまで捨てられるなら……最初からもうやめにしよう。



タマさんと出会ってまだ24時間経っていないけど、一緒に眠ってくれたことが嬉しかった。
本当に、嬉しかった。


深夜のように涙がポロポロと溢れて止まらない。タマさんは優しかった。私に、笑いかけてくれた。




「ふぅ…ッ」



堪えきれない嗚咽が静かな路地裏に響く。


昨日の猫はもうここにはいないのかな。タマさんには会えなくていいから、せめて、何か、……――






「……雪乃、」

「ッ」



ガリガリ、と爪をたてていた右手が離れた。優しい声が私の名前を呼んだから。

思えば初めてだった。誰かに「雪乃」呼ばれるのは。



「……タマさん……」



彼は私にたくさんの初めてをくれる。タマさんのことは何も知らないけど、ひとつだけ確信出来ることがある。



「勝手に逃げんなよ。“ご主人様”が慌てるじゃねぇか」

「タマさん……っ」

「泣きすぎ。アイツは俺が殴っておいたから安心しろ」

「な、殴ったんですか!?」

「雪乃、お前泣き顔ブサイク」

「……酷いです……」



尚も泣き続ける私を見て目を細めて笑うタマさん。



分かること。
きっと私は彼に依存してしまうだろう。

……私は睡眠薬の大量摂取に依存している。それが大量に手元にない今、同じようにタマさんに依存してしまうに決まってる。



それじゃ、タマさんがあまりにも可哀想。



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