06


「……え、まじで言ってんのか?」

「はい?」

「コンビニのおにぎり食ったことねぇのか」

「ない、ですね」

「コンビニは入ったことある?」

「コンビニエンスストアに入ったことはないです。……あ、でもお店は見たことありますよ」

「……すげーな」



すごい?
逆にコンビニのおにぎりを食べることの出来ない私は駄目な人間だと思うのだけれど。



「よし、行くか?」

「はい?」

「コンビニ初体験、行くぞ」

「は、はい!」



無邪気に笑うタマさんを見て私まで楽しい気分になる。そうだ、これが“楽しい”ってことなんだ。

タマさんはすごい。
猫みたいで、真っ黒な風貌で、魔法が使える。タマさんはきっと魔法使いだ。



バスルームで急いで制服に着替えた。
着る服もないし、どこかで買ってこなくちゃ。

コンビニに服は売っているのかな?






「わぁー。ここがコンビニ」

「ここに連れてきただけでそんな喜ぶのお前くらいだぞ」

「狭いのに、商品がたくさんです!」

「ここ結構広めのコンビニなんだけどな」

「……あの……私、ポテトチップ?というものが食べてみたいです……」

「こっち」



タマさんの後ろを着いていく。初めての場所はなんだか落ち着かなくて、でもドキドキして。
なんで私はこんなに素敵な世界を知らなかったんだろう。



「何味がいい」

「たくさんの種類があるんですね……。どれがいいのか分かりません」

「じゃあうすしおな」

「はい。……あの、他におすすめはありますか?」



商品棚にはたくさんのお菓子が並んである。下の方の物を見たいらしいタマさんはしゃがみこんだ。

え、こんな場所でしゃがんでいいの?



「これ」



周りを見渡してみると数人いるお客さん誰もタマさんのことを気にしていないから、コンビニは座ってもいいお店らしい。


タマさんの隣にしゃがみこむ。慣れないからなんだか落ち着かない。



「それは?」

「たけのこと、きのこ。どっちがいー?」

「た、たけのこ味のチョコレートですか!?きのこ味!?」

「落ち着け。ありえねぇだろ」

「そ、そうですね。ちょっと衝撃的でした」

「く、あはは、ありえねー」

「タマさん?」

「雪乃おもしろすぎ、あははっ」



ひーひー言いながら笑うタマさん。何か面白いことでも言ってしまったのか。

戸惑うけれど、嫌じゃない。タマさんの笑顔は私の心を癒してくれる。



「くく、飲み物は?んー、コーラは飲んだことねぇんじゃねぇの?」

「コーラって何ですか?」

「来いよ」



たけのこ味って、とまだ笑っているタマさん。ちょっとしつこいけど全然嫌じゃない。

むしろタマさんは好き。こんな人初めて。



「あれー?環何してんのー?」

「……あ?」



びく、大きく体が揺れた。
突然現れた不協和音。タマさんの名を呼んだその男性はニヤニヤしながら私を見る。


なんだろう……。声も話し方も、何より私を見る瞳が――不快だ。



この感じには覚えがある。



「消えろ」

「環、最近冷たいからなぁー」

「聞こえねぇのか」

「この子誰?女子高生じゃん、俺にも紹介しろよ」



タマさんの声と表情が恐い。この男性を怒っているんだろう。

それよりも、あぁ、いや、イヤダ。



「可愛いじゃん、俺にちょーだい」



近付いてくる男性はニヤニヤと下品な表情で、わ、わた、私を、見る。



ガリガリ、
強く爪が食い込んだ。



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