04


このお風呂には悪戦苦闘した。最終的にはバスルームがびちゃびちゃになってしまってタオルで拭いておいた。

入り方、タマさんに教えてもらおう……。



タマさんが用意してくれたらしい黒いTシャツは当たり前だけどブカブカで。これじゃまるでワンピースみたい。



部屋に戻るとタマさんはソファで寝ていた。狭いのか長い足がはみ出ている。

変な感じ。知らない人の家にお泊まりしているんだ。



てっきり“そういうコト”をされるのかと思った。

今日はしないのか、それともただ気まぐれで置いてくれたのか。


タマさんは不思議な人だな……。





「……ッ」



ベッドに寝転がって目を瞑っても、父の恐い顔が瞼に張り付いて眠れない。

恐い恐い恐い。家を出たって恐怖はいつだって私を離してくれない。



いつまで、私は、……。



涙が止まらなくてベッドの端にたたんでおいた制服のポケットをまさぐった。

出てきたのは小さいビニールに入った白い錠剤。


ここじゃ、もうコレも手に入らない。これからは我慢しなくちゃいけないんだ。



「何それ」



びく、と体が震えた。
タマさん寝てたんじゃなかったの……?

タマさんの声が――低くて恐い。



「え?」

「何飲もうとしてんの」

「……薬、です」

「何の」

「……睡眠薬です……。す、すみ、ませ……」

「何で」

「……こ、これがないと……眠れない……」



涙がポロポロ溢れて止まらない。タマさんの黒い瞳は全てを見抜いているようで苦しくなる。

タマさんは近付いて来たかと思うと私の手のひらにある睡眠薬を奪い取った。
本当は奪い取った、とは言えない優しい取り方だったけれど私には奪い取ったように思えた。



タマさんも私の大切なものを取り上げるの……?



「眠れねぇのか」

「……は、っはい」

「分かった。ほら、布団に入れ」

「そ、それがないと眠れないんです……っ」

「分かったから、入れ」

「た、タマさん?」

「一緒に寝てやる」

「な、」



そう言うと無理矢理布団の中に押し込まれた。向き合って抱き締められる体制でタマさんとの距離は0。



「聞いていいか?」

「は、はい」

「何であんな汚ねぇ路地裏にいたんだ」



タマさんの低い声が近くて心地よい。胸に顔を埋めればタマさんの私を抱き締める腕に力が入った。

このまま、この腕の中で、永遠に眠ってしまえたらいいのに。



「私にお似合いだと思ったんです」

「あ?」

「明るくて綺麗な場所が似合わないんです」

「そうは見えねぇけど」

「……そうですか?」

「おじょーさま、って感じ」

「……そうですか……」

「嫌なんだ?」

「……分かりません」

「そーか」

「はい」

「寝ろ」



タマさんの声には魔力がある。不眠症の私が一瞬でうとうとするなんて。

タマさんは今日初めて会った人で、知らない人、なの、に……




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