03
タマさんの後を着いて道なき道を進むと、そこだけ廃虚とは思えない扉があった。
案内されて中に入ると、広くはないけど綺麗な部屋。
「……ここがタマさんのお家……」
「ワンルームだからお前の部屋ないけどいいか?」
「タマさんがそれでも構わないなら」
「……なぁ」
「はい?」
ジッと見上げると、明るい場所だからタマさんの顔がよく見えた。
タマさん、背が高いのに意外と童顔なんだ。男性の彼に言うのも変かもしれないけど可愛らしい顔をしている。
長い前髪で隠れているから、分かりにくいけど。
「やっぱりその呼び方やめねぇ?」
「……ダメですか?」
「“タマさん”ってバカみてーじゃん」
そう言って笑うタマさんを可愛いと思った。こんなに無邪気に笑う人見たの、初めて。
私の周りは酷く淀んでいるから。
「じゃあなんて呼べばいいですか?」
「好きなように呼べばいいんじゃねぇの」
「……タマさん」
「“タマさん”がいーのか」
「……だって猫みたい」
「ねこ?俺が?」
お前のことじゃねぇの?
ソファに座った私にマグカップを手渡してまた笑う。タマさんはよく笑う人らしい。
「……猫、嫌いですか?」
「嫌いではねぇよ」
「私は、……好きです」
「そーか」
「……はい」
私が小さい頃、居場所のない家で唯一の拠《よ》り所が飼っていた猫で、その子も――父に捨てられた。
私もタマさんに何をされるのかな。だってそうだ。こんな状況だもの犯されたって文句言えない。
「……ひとつ、いいですか?」
「なに」
「……どうして私を拾ってくれたんですか?」
「利用価値のあるもんは拾ってくる主義なんだよ」
「利用価値、ですか」
「この部屋のもんは全部拾ってきたか貰ったか作った物だしな」
そう言われて部屋を見渡すと、有るのはパイプベッドとソファと水道、コンロ。あと入ってきたのとは別にもう1つ扉があった。
シンプルだけど全部物は綺麗だから、これが全て購入品ではないことが信じられない。
「……すごいですね……」
「金ねぇからな」
「この部屋も自分で作られたんですか?」
「あぁ、でも結構簡単。知り合いにも手伝ってもらったしな」
タマさんは私と対角線の壁に寄りかかり欠伸をする。そういえば今は何時だろう。
衝動的に家を出て持っていたのは携帯だけ。それもここにくる途中に捨てた。
位置を特定されたら家を出た意味がない。……私を探すことはないと思うけど。
「移動だ、移動」
「はい?」
「お前がベッドに行け。俺はソファで寝る」
「い、いえ。私はソファで大丈夫ですから」
「いいから。そこに風呂あるから入って寝ろ」
もう1つの扉を指差すタマさん。あぁ、お風呂だったんだ。
眠そうなタマさんにこれ以上何か言ったら叱られると思って、黙ってお風呂に入った。
バスルームの中に何故かトイレがあって驚いた。どうやって入るんだろう。
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