02


着いてきた先は繁華街からそう遠くなかった。俯いて男性に着いて来たから道順なんて分からない。



「名前は?」

「……雪乃《ゆきの》です」

「ユキノな」



俺はタマ

煙草を加えながら振り返る男性。暗いからよく顔が見えない。



「タマ、さん?」

「ちげーよ。タマキ」

「タマさんって、猫みたいな名前」

「聞けよ。まぁいいけど」

「ここはどこですか?」

「ウチ」

「……ここが?」



家、というか。

大きくて廃れたそこは病院の廃虚だった。じめじめと不気味で幽霊でも現れそう。



「誰も住んでなさそうだったし。よくねーか?」

「……さぁ」

「こっち来い」

「正面玄関はあっちじゃないんですか?」



崩れかけの玄関と思われるスペースを指差す。なのにタマさんは見向きもせずに草むらに入っていった。


どこに行くんだろう…。



「あれから入ると俺の部屋が遠くなる」



暗闇をスーッと進んでいくタマさんに慌てて着いていく。タマさんのその姿は本当に猫みたいだ。



「……ねこ……」



ガリガリ、
何故かまた右手が左手首に伸びて爪をたてる。


私はこのまま家に帰らない気なのかな。
タマさんが悪い人で何をされても構わない。そんなのあの家にいるより随分とマシ。


立ち止まってしまった足を動かさなくちゃいけないのに。私は何がしたいんだろう。



タマさんの黒い瞳が離れたところから私を見ている。



「雪乃、来ねぇのか?」

「……」

「俺はどっちでもいい。お前のこと知らねぇし」

「……」

「お前がどうしたいかだ」

「……分かりません……」



どうしたいか、なんて聞かれても私には分からない。自分で考える能力が備わっていないから。

人形と同じだ。
誰かに汚され、果ては棄てられる人形。



「分かった。俺が決めてやる」

「……タマさんが?」

「夜は寒いし虫もうぜぇからウチに来る。はい決定」

「え……っと」

「あ?」



既に歩き出していたタマさんは、未だ動かない私を見て怪訝な顔をする。苛ついているようなそんな表情。



「別に拾ってあげてもいーけど」

「ひろう……?」

「捨て猫を拾ってやるって言ってんの」



捨て猫って私のことを言っているのかな?
どちらかというとタマさんの方が猫なのに。



「タマさんは私のご主人様になるってことですか?」

「……あ?」



タマさんの加えていた煙草が草むらに落ちる。何故かタマさんは固まったまま動かない。

火事になってはいけないと思って、タマさんに近付きさっき彼が路地裏でそうしたようにローファーで落ちた煙草を踏み潰した。



少しだけ胸が痛くなる。
まさか煙草に感情があるとは思わない。だけど、踏み潰される醜さが私のようで見ていて不愉快になる。



「何それ、雪乃ってそういうのが好きなのか」

「はい?」

「いやでもマジもんだよなぁ、お前」

「……タマさん?」

「しかしご主人様って、エロいな」

「……何がですか?」



エロい、とは。一体どこからその言葉が出てきたんだろう。

私は何か卑猥なことでも発してしまったのだろうか。



「“ご主人様”って何でそう思った」

「“飼う”ということはそうでしょう?よく父や執事達が言っていました」

「執事?お前の家金持ちか」

「……さぁ。基準が分かりません」

「ふぅん」



私の家には家族以外の人間がたくさんいた。メイドや執事、家庭教師にコック。

私にはあの大きな家が息苦しくて仕方なかった。



「雪乃の家に、誘拐したって脅したら金くれっかな」

「どうでしょう。期待は出来ないと思います」

「そーか」

「はい」



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