だって雨宮先生は、会えなくなってしまうのは悲しいと思っているだけで。
これからも会おうとまでは思ってはくれない。ここでさようなら、それで終わりの関係なのは解っていた。
雨は止んでしまい、私の泳ぐ場所だと錯覚していた水たまりも干上がって……元の何も無かったカラカラの場所に逆戻り。
「でも、雨宮先生とこれでお別れだなんて、嫌です」
「……蛍川さん?」
「私は雨宮先生が好きだから」
「……」
「だから、そんなこと言わないでください……っ」
中途半端に優しくされるのは嫌なのに。
でもそう思うのは私の都合で、雨宮先生が“僕もですよ”と言ってくれたのは中途半端でもなく、雨宮先生の優しさなのだ。
こんなこと言ってはいけなかった。好きだなんて、そんなことを言ったら呆れられてしまう。
……私が、この場にいられなくなってしまう。
「蛍川さ、」
「失礼します!」
雨宮先生の私を呼ぶ声を遮るようにして、鞄を乱暴に掴む。
机に広げてあった問題集を急いで腕に抱いてから、足早に座っていた机から離れた。
後ろから雨宮先生の私を呼ぶ声が聞こえてきて振り向きたくなるけれど、そうはせずに走り出して図書館から出た。
外は暗く人気《ひとけ》もない。あれだけ強く降っていた雨は、今では小降りになっていた。地面に浮かぶ水たまりにぽつぽつと雨が躍る。
その雨も、今にも止んでしまいそうだった。
告白をするつもりなんてなかったのになぁ、と思う。
それ以前に、さっきの私の発言を告白としていいのかすら疑問だ。逃げて、これからどうするつもりなのだろう。
またあの生活に戻るだけなのだと答えはすぐに出る。
メトロノームのように、決められたリズムに沿って。つまらない365日がまた始まるのだ。
「……待ってください!」
背後から伸びてきた手と声によって、進めていた足が止まった。
腕を引かれて私の体がその手の主の方へと向く。その拍子に抱えていた問題集が、音を立てて水たまりに落ちた。
追いかけてきた雨宮先生の顔を見ることは出来なくて、暗い水たまりの中でぐったりとしている問題集を見つめていた。
「逃げなくたっていいじゃないですか」
「……」
「蛍川さん?」
「……どうして追いかけてくるんですか!」
「追いかけますよ。当前です」
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