04
 

「仕方がないじゃないですか。ちょっとくらい素直にならなくちゃ、……雨宮先生はもうすぐ教育実習の期間が終わっちゃうんだから」


拗ねたように雨宮先生から顔を逸らして思っていることを言ってみる。それに対して反応がなかったから、恐る恐る目の前に座っている雨宮先生に目を向けた。


「そうですね。蛍川さんの雨宮先生も悪くはなかったですよ」

「あはは……、私の、ってなんですか」

「他の生徒と接する時間よりも、蛍川さんとこうして図書館で話している時間の方が楽しかったですから」

「……」


……雨宮先生の言葉に、私は喜ぶべきなのだろうか。

分かっている。雨宮先生は教育実習生なのだから、その期間が終わっても関係を続けようと思えば続けられるのだろう。けれど……雨宮先生がそれを望んではいないのだ。
そうだと、解ってしまう。


一緒に図書館で過ごしてくれて、話し相手になってくれた。私の“メトロノームからの脱却”に付き合ってくれているだけで、十分じゃないか。


突然降ってきた雨によってできた水たまりは、いつかは干上がってしまう。
泳ぐ場所など、そこに有ったということすら、全て。無くなってしまう。消えてしまうのだ。


「……蛍川さんは、考え事をしている時がよく分かりますね」

「え?」

「そんな悲しそうな顔をして、何を考えているんですか?」


首を傾げて真っ直ぐ私を見てくれる雨宮先生は、ちゃんと目の前にいるのに。どうしていなくなってしまうのだろう。

どうして、と考えたって無駄なのかもしれない。
答えは最初から解っていたことで、そこに行きつくまでの式を変えようと――今までのメトロノームのような365日から脱却しようと――この二週間を過ごしてきたはずなのに。

今となっては、その答えを受け入れることを嫌だと思ってしまう。

これが恋だというのなら、なんてやっかいな感情なのだろうと思った。


「悲しいです。雨宮先生とこうして図書館で会えなくなってしまうのは、……悲しいです」

「僕もですよ」

「……っ」


憂いを帯びた表情は、どこか色っぽく感じる。
同学年の男子とは違う、他の教師とも違う。雨宮先生はいつしか私の特別になった。

そんな雨宮先生が、私と会えなくなってしまうことを悲しいと思ってくれて、そう言ってくれる。
それはとても嬉しいことで、喜ぶべきことなのだろうけれど……私の心はずっしりと重たくなるだけだ。

嬉しいと思えない、喜べない。



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