03
 

「……蛍川さん、変な声を出さないように」

「……雨宮先生が悪いんですよ」


間をおいてからわざとらしく咳払いをしてそう言った雨宮先生を、眉間に皺がよらないように笑顔を作って文句を言ってみる。


「女子高生は難しいですね。僕には分りません」

「……雨宮先生だって若いくせに」


僕という一人称を使っているけれど、この前電話をしているところを聞いていしまった私なら知っている。

友達――それとも彼女か――と話していたらしく、図書館や学校で見る微笑みとはまた違っていて、楽しそうに声を出して笑い、一人称も“俺”だった。

……悔しいから雨宮先生に言ったりは出来ないけど、ただただ落ち込んだ。


「ピアノを弾くのが好きです」

「え?」

「雨のほかに何が好きなのか訊いたでしょう? ピアノを弾くのが好きなんですよ」


ピアノを弾いている雨宮先生を想像してみる。雨宮先生の綺麗な手で奏でられるピアノの音って、どんな風なのだろう。音楽には疎いから全く分からない。


「図書館にピアノがあればいいのに……」

「はい? ……あぁ、ぷっ、あはは」

「え? どうしたんですか?」


私が小さく呟いた言葉を聞いて、雨宮先生は笑い出した。

図書館にピアノがあれば、もしかしたら弾いて聴かせてもらえるのではないかと、そう考えたことに気付いたのだろう。
けれど、どうして笑い出したのか考えても解はでない。

でも雨宮先生が私のことで声を出して笑っている。また胸の奥がぎゅっと掴まれたような気分になる。


「そうですね。図書館にピアノがあれば、蛍川さんに聴いてもらえたんですけどね」

「笑いながらそう言っても、からかわれているとしか思えません。いじけそうです」

「からかっているんだから、いじけてもらわないと困ります」

「前から思っていましたが、雨宮先生は少し……、いえ、とても嫌な感じです」

「蛍川さんがそうやって素直に思っていることを言ってくれると、僕は嬉しいですよ」

「う……」

「少し前の、緊張で固まっていた蛍川さんも可愛らしかったですけどねぇ」

「う……っ」


わざとらしい雨宮先生の言葉に、私もからかわれたとちゃんと分かっているのに……赤面しながら呻くことしかできなくなってしまう。悔しい。発言もそうだけれど、笑顔にもドキドキしていることが悔しい。


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