「ほら」
「……っ」
「よーしよし。恐い人はもういねぇよー」
優しく抱き締めてくれるタマさんの体温を感じる。それだけで体も気持ちもホッとする。
タマさんは本当に何者なんだろう。あぁ、そうだ。彼は魔法使いだった。
「……殴ったんですか……?」
「あ?」
「……コンビニでの、あの人のこと……殴ったんですか?」
「まぁな。ムカついたし」
「……痛かったでしょう?」
「アイツが?」
「タマさんが、です」
「タマさんは慣れっこだから大丈夫」
細身のタマさんだけど、こうやって密着してみるとやっぱり大きい。
ドキドキする。この感覚も初めて。
「それでも、慣れてるとしても、痛いものは痛いじゃないですか」
「そーか」
「はい」
タマさんのぬくもりに包まれて、声が低く響いて。
誰か他人の体温を感じられるだけで、それだけで幸せだと思える。……私には夢のようなことだったから。
「……タマさん……」
「どうした?」
抱き締められている体制から、タマさんから少し距離をとった。それでも手を伸ばせば簡単に届く距離。
――もう、私はこのまま、
「……私を、殺して……」
死んでもいいと思った。
このまま、タマさんの腕の中で眠ってしまいたい。
もう、泣くことに疲れたんだ。お願い、お願いだから。もう息が出来ないの。
「雪乃」
「……っ」
「雪乃、泣くな」
「止まらないんですっ」
「よし、じゃあ泣け!いっぱい泣いとけ!」
うわああん、と泣き喚く私はどれほど滑稽なんだろう。
タマさんが微笑んでいるから余計恥ずかしい。
きっとタマさんからしたら私はまだまだ子供で、悩みなんてちっぽけなものなのかもしれない。
だけど、本当に辛いんだ。
生きていくことがとても難しいんだよ。誰しも辛いことがあって一生懸命に生きているんだろうけど、私にはそんな強さない。
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