中編:その他 | ナノ


雲に託した願い


菊さんの家で、のんびりと過ごしていたはずだったんですけど。(縁側って珍しいよね、とか思って。)いつの間にか日が妙に傾いていて。 

「ナマエさん、やっと起きたんですか?」

目を開いて初めに見たものは菊さんと・・・・・笹? 何故か菊さんの後ろにはフサフサと音をたてる笹が居ました。
 
「何ですか、この笹?」

そう言って、私は縁側から地面へ足をつける。

「・・・ナマエさん、今日が何の日か覚えてませんか?」 
「えーっと・・・今日って、7月の・・・5日ですか?」
「それは一昨日です。」

もうナマエさん、しっかりして下さいよ。と、笑いながら私の答えを待っている。それを見て、寝起きでボーっとしている脳をフル回転させる。

 「・・・5日が一昨日って事は・・・今日は、7日?」

私の答えを聞いた菊さんは、にこやかな顔をして、私にこう言った。

「今日が何の日か、わかりましたよね。ナマエさん?」
「あぁ、七夕でしたね。」

そう言われ、自分は何の日か思い出した。菊さんには、「しっかりして下さいよ!」と注意されてしまった。だけどさ、日にちなんて気にしないと思うんだ。(自分の誕生日だったら気にしてる・・・といいな。)そう言おうと思ったけれど、菊さんの機嫌を損ねたくはないので、あえて黙っておくけど。

「ナマエさん。はい。」

そう言って、渡されたのは短冊とペン。(・・・量、多くない?)

「あの・・・量多くないですか?」 

思っていたことを口に出すと、菊さんは困ったように笑ってこう言った。

「実は、フェリシアーノ君が七夕をやりたいって言ったので、4人分用意したんですが。」

・・・これなくなったって事ですね。そう言うと、「まぁ、そんな感じです。」と曖昧に答えた。

「まぁ、良いですけど。あの人達も色々あるんでしょうし?その分自分が書けば良いんですよね?」

そう言って、私は短冊を1枚手に持ってペンを動かす。しかし、短冊にお願いなんて小さい頃以来だったので、何となく戸惑いながら書いていった。

「出来ましたか?」

そう聞かれ、まぁ・・・、10枚とはいきませんけど。と、答えて笹に吊していく。

「こう言うのって、何を書けばいいか迷いますよねー。」
「そうですよね、今時の人って、こういうのを大切にしないのか、思いついたことを書いていくんですけど。」

ナマエさんはちょっと違うんですね。と、言われ何となく微妙な気持ちになる。それは、私が年相応に見られていないと言うことだろうか・・・? 少し凹みながら、吊していく自分の願い事が一つでも叶ってくれればいいと思いながら。

夜になると、空には雲が覆って星が隠れてしまった。

「雨、降りそうですね。」
「そうですね・・・。」 

私は空と菊さんの言葉を聞いて、私はため息をついた。それに気づいた菊さんが私に声をかけてきた。

「・・・ナマエさん、どうかしましたか?」
「あー・・・いえ。もう一個目の願い事が叶わなかったなぁ、って思いまして。」

それを聞いて、菊さんは不思議そうな顔をして笹をちらりと見た。

「なんて書いたんですか?」
「『織り姫さんと彦星さんが会えますように。』」
「・・・・・・。」

それを聞いて、菊さんはキョトンとしていたけれど。その後クスクスと笑いだした。

「あーはい。わかってましたよ。笑われるってわかってましたよ。」 

真剣に書いていた内容の1部がこれならば、他もこんな感じだろうとか思われてるんだろう。 まぁたしかに、そんな感じのが多いけど。今日は拗ねてばっかりだとか思いながら、空を見上げるけれど。私の願いは天の川の中で沈んでしまったに違いない。彦星と織り姫に自分たちの願いが届かないのか・・・と思うと、この空を覆う雲が憎たらしく思える。

「あーあ。晴れてくれないかな・・・。」

そう呟くと、菊さんが「晴れなくても、良いんじゃないですか。」と言う。私はその言葉に驚いて、空を見ていた視線を菊さんの方に向けた。すると、菊さんはにこやかな顔をしてこう言った。

「私の聞いた話によると、曇っていたら、誰にも会わずに2人きりで会えるそうですよ。」
「誰にも会わずに・・・ですか?」
「はい。まぁ・・・雨が降ってしまったら、ナマエさんの願いは叶いませんけどね。」

まだ、雨が降っていないので、まだ解りませんよ。そう呟いた菊さんの言葉を聞いて、私はもう一度空を見上げた。さっきまでの憎たらしいと思っていた黒い雲が、今では優しい色をしているように見えた。(嗚呼、菊さんの言葉でこんなに変わってしまう自分が居る。)


 雲のカーテンで私達を隠して



「ナマエさん、実を言うとですね。私のお願い事はもう初めから叶ってたんですよ。」

笹がゆらゆらと揺れるなか、ふと、そんなことを彼は口に出した。

「まぁ、私の場合は雲のお陰ではなくて、仕事のお陰なんですが。」
「・・・それって、ルートさんとフェリ君ですか?」 

それを聞いた菊さんは「さぁ、どうでしょうね。」と、含みのある笑みを向けた。



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