中編:その他 | ナノ


闇夜の朱い月


目の前に見えるのは、真っ赤な紅葉や銀杏の葉。どこかそれを綺麗だと思う自分がいる。

「菊さーん、きやしたよー。」

そう言いながら、玄関を軽く叩く。しかし、家の主は出かけているのか、家の中からは物音ひとつしない。どこかへ出かけているのだろう。そう思い、その間どうしようか考えていたときだった。

「本田なら、只今留守にしておりますが。」

そう、凛とした声がどこかから聞こえてきた。

「その声は・・・ナマエさんですかい?」
「おや、サディク殿か。」

そう聞こえて、周りの落ち葉が竜巻の様に巻き上がった後、目の前にナマエさんがいた。彼女が首を上げ下げして俺のことを上から下まで確認した後、ゆっくりと独り言のように言う。

「うん、理解した。・・・サディク殿が今日来る客人だったのか。」

そう言った後すぐに、全く、本田は留守番を頼んでおきながら、誰が来るのか言わないから・・・とかぶつぶつ呟き始めた。そんな彼女を見ながら、俺は気になったことを聞いてみた。

「その・・・ナマエさん?留守番ってどういうことですかい?」

俺の言葉を聞いて、ゆっくりと顔を上げて俺の方を見る。

「あぁ。『客人用の菓子を買ってくるのを忘れていた。』とか言って、買い物に行かれましたよ。」

仕事で来て貰っているのに、悪いことをしたな。と呟けば、俺は慌てて首を振って抗議をする。

「いや、仕事じゃないんですよ。遊びに来ただけなんでさぁ。」
「・・・仕事、じゃない?」
「ええ。だから、ナマエさんもそんな『サディク殿』なんて固っ苦しい喋り方、止めてくだせぇ。」
「ん、そうか。・・・そうならそうと、早く言ってくれ、サディク。」

そうにこやかに笑って言われ、内心どきりとしてしまう。

「敬語なんてここ500年位から使い始めたから、肩が凝るんだよ。そう言うことは先に言ってくれ。あー、肩こった。」

そう言って、両手を上に伸ばして『んー。』と声を出しながら、背伸びをする。今度から気ぃ付けます。と言えば、『あぁ、そうしてくれ。』と言う声と共に、手のひらを空の方へと近づけた。 その時、パサリとなにか、軽いものが落ちた音がした。軽いもの、と言っても。今も変わらず空気の川を流れている紅葉などではないことは解っている。
じゃぁ、何だったんだ。と思って下を見ると、黒い布が自分の靴に乗っかっている。

「あ、落ちたのか。まぁ、仕方ないけどね。」
「え、ナマエさん。これは?」

そう言って俺はその布を拾い上げる。

「ん、それ?私の上着だよ?」

『さっきまで羽織ってたやつ』と言われれば、微かに暖かいと感じることが出来る。
しかし、何故両手を上げただけで上着が落ちるのか。その事を考えていると、相手は笑いだした。

「はははっ、君は私の服装なんて気にもかけてなかったって言う口か。」

すいやせん。と謝れば、

『違う、違う。そう言う意味じゃなくて。こんな目立つ色なのに、気づかない人間が居るのかと思ったのさ。』

と口元を必死に元の位置に戻そうとしながら言う。
そうして貴女は、俺の手から上着を取り、肩に掛ける。(あぁ、肩に掛けていただけだったのか。と今更気づく。) その行動をじっと見て、嗚呼確かに、目立つかもしれないと思う。黒だけだと思っていた上着には、金の川を流れる紅葉が描かれていた。あまり派手なのを好まないナマエさんにとっては、いつもよりも自分が派手に見えるらしい。(綺麗だと、思うんですけどねぃ。)

「かっこい・・・いや、似合っているか?」

そう聞かれ、俺はクスリと笑いながら「格好いいですよ。」と答える。(全くもって男らしい、でもそれが貴女の良いところ。)

「そ、そうか?・・・うん、その、ありがとう。ヘラクレスのあの上着のかけ方をマネしてみたんだ。」

照れながら言われ、自分は緩んでいた頬がもっと揺るんだ、 はずだった。その一言を聞くまでは凄く俺は幸せだった。そう断言できる。だが、何でこんな所であいつの名前が出てくる? と言うか、ナマエさんとあいつが俺の知らないところであって居たという事なのか?嗚呼、それ以前に。

「・・・ナマエさん、寒いでしょう。・・・しっかり袖に腕を通して下さいよ。」

そう言って、俺は肩に掛けてあった上着を取る。 そして貴女は、凄く不思議そうな顔をして、俺が取った上着にしっかり腕を通した。上着をちゃんと着て貰った後、貴女はずーっと俺の方を見てくる。

「どうかしましたかい?」

と聞くと、彼女は近くに落ちていた紅葉を一枚拾い上げる。そして『なぁ、サディク。』と言って、紅葉と上着の紅葉を俺に見せる。

「これ、君の月みたいだろう?」

そう言って、笑いかける貴女は、凄く綺麗なんでさぁ。


闇夜の朱い月

                                      
「ナマエさん。今度、これでも付けてみますかぃ?」

さっきの言葉を聞いて、ボーっとしていた俺は、照れ隠しのように仮面を指して、早口で呟く。 そう言うと。『うん、良いかも・・・・あ。でも駄目だ。』と言われ、何故かと訊ねてみると。 (良いかもと言われるとは思ってもいなかった。)

「サディクと同じ世界を見れるのは嬉しいけれど、その間君はこれ、取っているんだろ?」
「じゃぁ、誰もいない時に付けてみますか?」

君の顔を私以外の人が見れて私が見れないなんて嫌じゃないか、と可愛らしい事を言いながら拗ねるナマエさんに、俺の所にも来てくださいよと言うとナマエさんは頷きながらはにかんだ。



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