真夏のトルコアイス ちりんと、優しく涼しげな音とは裏腹に、頬から顎へ伝って落ちる汗。その汗がまた、足を冷やしている水の上に落ちて涼しげな音を奏でる。 「音は涼しいのになぁ。」 どうしてこうも、周りは暑いんだろうか。 菊が帰ってくるまでの間、私は特に何をするでもなく、ただボーっとしていた。そうでもしないと、この暑さはやっていられない。 「最近暑いからなぁ・・・。」 さっきも熱射病の話をしていた。最近兎に角暑いのだ。そうして、暑さでとろけてしまいそうになっている私の耳に、家のチャイムの音が響いた。 「こんにちはー。菊さんは居ますかねぃ。」 その声が玄関へと急ぐ私の耳に聞こえ、彼が去っていく前に私は大きく声を出した。 「本田は居ませんよー。」 「その声は、ナマエさんかい?」 私はだんだんと足の速度を緩めていき、玄関で大きく息を吸って扉を開けた。 「こんにちは、サディク・・・すいません、お引き取り下さい。」 が、すぐ閉めた。 「ナマエさん!?一体どういうことですかぃ!!」 そう言って、声を少し荒げて居るサディクさんに、私は慌てて口を開く。 「その、だな・・・見ているだけで暑そうだから、少々上着をどうにかしてくれ。」 その服装。冬は暖かそうだが、夏はちょっと暑苦しいだろう。取りあえず、まず帽子のモコモコ加減とか、顔を覆っている仮面とか、暑くないのか。 「あー・・・はぁ、ナマエさんがそう言うなら、俺は上着の1つや2つぐらい脱ぎますけど。」 そんなこと、早く言ってくれれば良かったのにとかそんな声が聞こえてきて。(実際、そんな暇は無かったと思う。)私はもう一度扉を開けて彼を見る。うん、やっぱり仮面は外さないのか。 そう思いながら、私は彼に用件を聞いた。 「お中元?」 「はぁ、お中元ってやつでさぁ。」 サディクが持ってきてくれた箱の中を見ると、何か固形物じゃない物が見えた。 「えーっと、これ、何?」 「あぁ、トルコアイスですよ。一回食べてみたいって、ナマエさん、言っていたじゃないですかい。」 私が言っていたことを覚えてくれていたのは嬉しいが、箱に詰めてくるのはどうかと思う。 そう思いながらも、欲望には勝てなくて。 「菊来る前に、少し食べても良いか?」 それを聞いた彼は少し考えてから、どこからか出したスプーンに、箱のアイスを乗っけ始めた。そして、スプーン一杯に溢れんばかりのアイスを乗っけて渡してくれる瞬間。 「おっと、手が。」 アイスが乗っている方を、地面に向けた。 逆さまアイス 「わわわっ、アイスが落ちる!!」 「トルコアイスはそんな簡単に落ちないですぜぃ。」 悪戯が成功した子供のように笑うサディクを見て、私は心底面白くない。そんな私を察してかは知らないが、ゆっくりと近づいてきて、一言。 「暑さ。ちったぁ忘れられたでしょう?」 そう言われ、少し暑く感じられたのは気のせいだと信じたい。 back ・ top |