一夜限りの夢ならば 「ナマエさん、もう良いじゃないですか。観念したらどうです。」 「むり。・・・菊、私は鎖国をする。もうそれしかない。」 休む、と呟くナマエさんを見て、彼に貴女が来るって言ってしまいましたよ。と呟けば。 「!!・・・・か、風邪で寝込んだ「ナマエさん。貴女、神様でしょう。」 目の前に広がらない狭い世界で、私は部屋の隅でこそこそしている。 「ハロウィンにちなんで仮装とは言え、この仮面はどうにかならないものか・・・・。」 ちなみに私の家では、この日は仮装なんてものはなく。カボチャのプリントがされているものや、それのお菓子を売る手伝いをさせられる。神が総出でカボチャの類を売る事もたまにあった。(まぁ、要はハロウィン商戦に巻き込まれるという話だ。) 行事の内容はいまいちよく解らないが、この時期はハロウィンの類が売れると言うことだけは理解しているつもりだ。 なので、こんな誕生日パーティが発生するなんて思わない。しかも、着慣れていないドレス着用で。 「・・・鎖国をしたい。」 「何危ない発言してるんですかぃ。」 「げ、サディク。」 現実逃避をしていると、いつの間にか、私の隣で壁にもたれているサディクがいた。 「ナマエさん、『げ』とは何ですか。『げ』とは。私がせっかく連れてきたのに。」 そう恩着せがましく隣で言う菊に、私は余計なお世話だ!!と叫びたくなった。だが、一応サディクの誕生日を祝う場と言うのを考え、私は叫びたくなった衝動を抑え、菊に恨めしげに見る。 「・・・・。」 彼はというと、気にもしていないように仮面越しから私に薄く笑ってみせる。そして、「あ、私ルートヴィッヒさんに呼ばれているんでした。」と言って、どっかに言ってしまった。彼は空気を読んだと思っているだろうが、私的には本気で戻ってこい。しかしその思いも空しく、菊は人混みの中へと消えていった。 「・・・・・・。」 「・・・・・・。」 凄く落ち着かない。無言というものはこうも気まずい物だっただろうか。取りあえず何かを話そうと思い、「サディク。」と小さい声で呟いてみた瞬間。 「ナマエさん、トリックオアトリート!!」 してやったりと言うような顔でそう私に言ったサディクに対して。私は一瞬驚いたが、余裕の笑みを浮かべる。 「新製品のパンプキンバームクーヘンだ。・・・これで良いか?」 彼の手にそれを置くと、残念そうに「悪戯出来ると思ったんですがねぃ。」と言われる。(サディク、お前は私に悪戯したかったのか。)まぁいただきますよ、と言って袋を開けた瞬間、私はすかさず口を開いた。 「サディク、トリックオアトリート。」 それを聞いた彼は、苦笑いを浮かべながらこう言った。 「ナマエさん、このバームクーヘンで「封が開いている物は却下だ。」・・・すいません、無いです。」 一夜限りの夢ならば、せめて 「じゃぁ、悪戯しますよー。」 そう言ってナマエさんは俺の仮面に手を掛けて取ってしまった。 「あ。」 「たまには広い視界を楽しんでみるのも、良い物だろう?」 目の前には、手に持っているそれと同じような仮面を付けて、楽しそうに笑っているナマエさんがいて。 「・・・そう、ですねぃ。」 たまには、こう言うハロウィンも悪くないと思う。 (そう言えば、サディク。主役がこんな隅っこにいても良いものなのか?) (あぁ・・・ですけどねぇ。仮面がナマエさんの手元にある限り、俺、此処から離れられないんでさぁ。) (そう言えば、いつもこれ付けているな。・・・返そうか?) (いえ、もう少しこの視界を楽しんでいようかなと。) back ・ top |