中編:海賊♂ | ナノ


何色にも染まりぬ


「ナマエ、昇進おめでとう。」

いちいち律儀に昇進祝いを手に持ってきたのは、海軍の化物一期生のサカズキ先輩である。色々と目をかけてくれていたのは知っているから、手の中にあった赤色の花束をそのままに自分の腕の中へと引き寄せる。少しだけ香りのきつい薔薇の匂いが鼻腔いっぱいにひろがり、思わずむせそうになったのだが、そこはぐっとこらえて感謝の意を述べる。

「・・・ん、ありがと。サカズキ先輩。」

嬉しいです、と目を合わせながら言ってみれば、少しだけ眉を寄せながら息を付くサカズキに疑問譜を浮かべる。嬉しいのは間違いない事実だ。だがどうしても原作でのサカズキのイメージが強いぶんだけ、彼のやさしさや心遣いを受けるたびに身構えてしまうのは仕方のないことだろう。それを少しも気取られないようにするような器用さはあいにく自分は持ち合わせていないのでとりあえずいつもどおり笑って誤魔化してみる。

「先輩ってのも今日でおしまいになるのかな、サカズキ中将。」
「サカズキ、でいい。」

同等の立場になったのだから敬語も無用だ、と暗に示してくるサカズキに苦笑しながら口調を元の普段遣いに戻す。まぁそれといっても普段クザン少将とかと話しをしているときよりかは幾分硬くなってしまうのだが。

「赤い、薔薇。サカズキの花だね。」

覗き込んだ白いラッピングに包まれていた、大輪の薔薇。赤い薔薇のイメージとしては、俺にとってはサカズキの胸を彩るモチーフにしか該当しないのだが、まだサカズキは胸に薔薇を挿してはおらず、前からそこがわだかまりとしてずっと己の中に残っていた。違和感というのだろうか。知っているはずの未来と少しだけ違う現在で、大きな違いよりも最近は小さいことばかりに気が向いてしまう。

「・・・どういう意味じゃ。」
「サカズキらしいってこと。」

赤の薔薇は俺に送られるものではなくて、その赤いスーツの胸元を彩ってこそのものだと思ってしまった俺は、不意に花束の中から大きな花を一輪抜き取って、茎をきれいに折るために息で軽く花を凍らせた。ぱきりといい音をしながら凍った茎は簡単に折ることができたので、そのままその薔薇をサカズキの胸元のポケットにしまいこんだ。

「サカズキには赤が似合うよ。」

そう、この絵こそが俺の知っている赤犬である。堂々とした物怖じしない佇まいで、凛とした薔薇を胸に指し、どれほど犠牲を払っても、どれだけの代償を払うことも厭わない強い・・・

「・・・青雉、の名前を頂いたからには青色の花が良かったちゅうことか?」
「色にはさほどこだわらないけど、青色は好きかな。」

青色はそれこそ俺の色だというイメージは無い。俺の中の青色はすでに埋まってしまっているからだろうか。ただ、好きかと聞かれれば青色はとても好きな色だ。

「・・・お前には青色は、似合わん。」

不意に、サカズキは強い口調で言い放った。

「じゃあ、何色がサカズキは俺に似合うと思うの?」
「・・・・・・ 白、じゃ。」
「・・・そんな、お綺麗なものじゃないと思うけどね。」

白。どの色に染まることが出来る色でありながら、全ての色に染まりきれぬ色。全ての色を中和して、本質を見失わせる色。そういえば、俺にはとても似合いの色ではないか。

「・・・次は白い薔薇を期待しても?」
「お前より、わしのが昇進は早いじゃろうけ、期待はするな。」
「手厳しいねぇ。じゃあそのときは青い薔薇でも送りますよ。」


何色にも為れないまま、何色にも染まりぬ


就任式前に呼び止めたサカズキの胸元は何の花も彩っておらず、ただ底抜けに赤いスーツが男を強調していた。わざと空けてあったようにも見える胸ポケットに手元の青い半束から一本、一番大ぶりな青い花を胸にねじ込んだ。

向こうの世界と違って、グランドラインには探せばもしかすると青い花はあるかもしれないが俺にはこの選択が一番似合いのように見えた。白いバラを青く着色で染め上げた偽物の青。俺にはそのくらいの色の方がお似合いだ。

「サカズキ大将、昇格おめでとうございます。」
「・・・ナマエか、すまんな。」
「今度は俺の色に、してみましたが。」
「言うたじゃろ。お前には青は似合わんと。」
「・・・似合わなくても、俺は 青雉 ですから。」

その言葉を、彼はどうとったのかは定かではないが。
少なくともそれ以降、彼の胸元はいつでも赤い薔薇が彩っている。

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