中編:海賊♂ | ナノ


夢物語にしか思えない


神様の悪戯だとか、神隠しだとか。今の状況はそんなものだろうか。学校に遅刻すると思い、いつも通る神社の横の細道をくぐり抜けて学校に向かっていたはずなのに、細道を抜けた先にはいつもの風景は広がっておらず、ただただ青さだけが水平線の向こうまで広がっていた。つまり今の俺が言いたいのは「ここどこよ、」って事だ。つらい。先程まで通ってきた道を振り返ってみたものの、そんな道はどこにも存在しておらずただ同じような景色が続いていた。


「全く、どこだここは。」

抜け道を通った時に着いたのだろう葉っぱが頭を撫でればはらりと地面に落ちた。砂の色さえもいつも見ているアスファルトではなく、空の青さと反比例した白砂である。それに浅く息を吐きながら、人のいそうな方向にむけて足を動かす。そのまましばらく歩いていれば足を向けていた先からざわざわとした騒がしい音。更に近づいていけばそれはどうやら人の声であるらしい。

「朝市・・・?」

わいわいと通り過ぎていく知らない奴らの髪は色とりどり華やかで、黒色の髪の人もいるものの日本人の髪の色では奇抜とされる原色のようなきらびやかな彩色の髪を靡かせながら歩く人間のなんと多いことか。確かに話している言葉はどれも聴き慣れた日本語というやつだったが話している人間は日本人のそれとは異なっている。

友達のばっちゃんが言ってた。神社には不思議な力が宿るらしい。当時はくだらないなんて鼻で笑った言葉が頭の中でリフレインする。昔は神隠しやらなんやらあったらしいがそんな時代にも忘れ去られた神隠しなんていうものは、現代にまで反映しなくても構わないというのに。

「まさか、」

そんなことあるわけない。
そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。現に今だって目の前に広がっているこれは夢でない限り有り得ないなんて否定など出来はしないだろう。砂を踏みしめる足の裏の感覚、独特の街の香り、それにダメ押しのように頬を引っ張ってもみた。夢じゃない。

「夢じゃないなら、どうしようか。」

絶望するにはまだまだこの世界を知ら無さ過ぎるし、楽観的に考えなければこの先はただ停滞するだけだろうと自分のパターンを把握しているからこそ頭の中で弾きだした答えはとりあえず無難なものにとどまった。とりあえず現在地を把握し、帰れる可能性があるか探ること。また帰れなさそうであるとするならば今後の身の振り方を考えなくてはなるまい。なぜなら俺はまだ若い。

「・・・男は度胸、ってな。」

さて誰に聞くか、という所でひたすら流れの速い人の波を見渡してげんなりとした。選択肢が多すぎてこれは優柔不断で名高い俺には色々荷が重いので、独自にルールのように一番初めに掴んだ服の人間にターゲットを絞る。怖い人だったらその時はどうにかする。

そうと決まれば、と縦一列にテントが道のように並んでいる中に思い切って飛び込む。人の流れに押されながらどうにか捕まえた服の端。ぐい、と引いて振り返ったのはどこかで見たような面影のある男性だった。

「えっと・・・?」
「ん?」

この顔にとても見覚えがある気がしてならない。特徴的な頬の傷を持つ男は俺の記憶ではもう少し老けていた気もするが、着ている服もどこかで見かけたような白色のコートである・・・とここまでこれば何だか自分の中で察しもついてしまうわけで。



「あっ、これ夢だわ。」


笑いながら口から出た言葉に男は至極困惑した表情を浮かべたが、俺は絵に書いたような現代っ子である。この現状から笑いながら現実逃避をしてしまっても仕方ないことだろう。

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