二つに一つ 同じ腹から同じように生まれて、同じ顔を共有する俺とミホーク。違ったのは俺の弟のミホークには天武の才があり、俺には無かったということだ。どれだけ俺が努力して追いついて見せようとしても、俺が同じところに立つときにはもう何歩も先をミホークが歩いている。それに疲れてしまったのだ。無い物強請りとはよく言ったもので、同じ顔の弟にはあって俺にはないモノが多すぎて小さいころから酷く理不尽に思えたものだ。 「お前、鷹の目のミホークだな。」 「・・・如何にも。」 笑えてしまうだろう。そこそこ名の売れた賞金稼ぎと言われていた神出鬼没な弟に成り代わって悪逆の限りを尽くした当時の俺を見つけた弟は一瞥するだけで、すぐその場を去ったのだ。まるで興味がないと言わんばかりに。そりゃあ悔しかったさ。同じなのは見た目だけで内面はまるっきり似てもつかなかった弟は俺の悪名ごと背負って一人で海賊になった。俺はそのあと一切会うことはないと思っていた。弟は七武海に入り放浪を重ねて、俺はその名前にあやかって捕まりもせず、ただただ同じように日々を過ごしていた。今日ここで弟のミホークに会うまでは。 「・・・ミホーク、何でお前がここに居る。」 「・・・ここに俺が居ると聞いてな。暇つぶしだ。」 「下らない戯言はその辺にしろ。要件は何だ。」 俺を訪ねる男が居ると聞かされた時にはまさか、とは思ったのだが。まさか弟が俺を追いかけて訪ねてくると誰が思うだろうか。相対したミホークに今更俺のことが目障りにでもなったか、と問えば無言でこちらに威圧をかけてくる。びりりと感じる久方ぶりの弟の視線はむき出しになっていた皮膚をびりりと刺すようだ。 「いつまでこんな茶番を続ける気だ、ナマエ。」 「・・・お前が死ぬまでだ、ミホーク。」 にっこり笑って言い切れば複雑そうに眉をひそめる。見れば見るほど同じ顔だ。今のところ違うのはミホークが好んで着ている貴族のようなゴシック調の服と、俺の着ている気候に合わせたラフなシャツ、対のように背負った大振りの刀。そのくらいなもんだ。 「そんなに俺が憎いか。」 「何を言ってる、ミホークは可愛い俺の弟だ。」 「・・・嘘つきめ。俺を恨んでいる癖に。」 「恨まれる理由に身に覚えがあるのか?」 「・・・。」 だろうとも、これは八つ当たりだ。いつもミホークと出来を比べられた俺の気持ちがお前に解ってたまるか。同じ顔をして居る癖にすべて俺より秀でていた弟を誇らしい反面、酷く憎んでいた。この気持ちがお前に解ってたまるものか。 「・・・だろうな、解らなくて構わない。」 「心当たりはいくつかある。俺を嫌いになる、理由だ。」 「へぇ、例えば?」 真一文字に結ばれた口をミホークがふるりと解いた。さて、どんな言葉が出てくるのだろうと思っていたら、その口から紡がれた言葉に声をなくした。俺の知らない驚愕の事実というやつだ。 「・・・嗤いたければ、嗤うがいい。実の兄に懸想してしまった、俺を。」 懺悔のように泣きそうな声で綴られた言葉には全く身に覚えがないのだが、ミホークの表情を見る限りこれが真実なのだろうことは漠然と理解することができた。ぼろぼろとこぼれだす事実に、ひくりと頬をひきつらせて見せれば弟が泣きそうな顔をして顔を腕で覆う。 「・・・俺が気持ち悪いか。」 同じ腹から生まれた、同性の兄を好いてしまったのだ。俺の中に巣くうその感情に気づいたから、ナマエは俺を嫌うのだろう。当てつけのように俺に不利な行動ばかりして。それでも俺はナマエを嫌うことなどできず、時が過ぎれば冷めると旅に出ては見たものの、離れれば離れるほどそれは身を焦がすだけでどうしようもなくなるくらい愛しているのだ、と震える声で言われた言葉に俺は言葉を無くしてただ立ち尽くす。 「・・・なんだ、それ。」 「だから、苦言は甘んじて受けよう。」 ただ、今日は一目俺に会いたかったのだと。この広い海で同じように放浪をしていた弟が俺を探して泣きながら告げた「愛してる」の言葉に俺は無言で俯くことしか出来やしなかった。 二つに一つ back |