中編:海賊♂ | ナノ


アイを追放せよ


知っている真実から逃げることは可能なのだろうか。全てを壊しても手に入れたいと思うものを手にするためには、どの程度の代償が必要なのであろうか。

色々と不自然な動きをするクザンの親友の動向を、気にしていないようなフリをして観察している。原作からしてみて現在はもうそろそろあのオハラ事件に近づいてきているのだろう。少なくとも俺はその原作をなぞるかのように中将に昇進したから間違いない。
小説やゲームなどにある分岐。正しい道はどこにあるのかなどイレギュラーな自分には選択のしようがない。唯一知っているのは俺が知っている真実の未来、元祖青雉の辿るルートだけである。最悪の未来を回避するにはどこの分岐でどう行動したらいい?

「・・・ねぇ、クザン?」
「なんですか。」
「お前は巻き込まれてくれるんじゃないよ。」

何を、と言わなくても喉を軽く引きつらせた賢いこの男にはわかっただろう。勿論、俺が言っているのはクザンの親友であるサウロのことだ。なにも知らないといいながらサウロの変な動きには一番にこの男が気づいている話なのだから。なにをしようとしているのかも。

「・・・まだ決まったわけじゃない、それにあいつだって海兵だ。そのくらいの規則はわかってるはず・・・」
「クザン少将。俺はただ心配しているんだ、お前もあいつも一直線で優しすぎるから。目の瞑り方を知らないんじゃないかと俺はいつだって心配だよ。」
「・・・どういう、意味ですか。」
「どうとでも、立場によって正義なんてものは見方を変える・・・これは俺の尊敬してた男のセリフなんだけど。」
「俺、あんたのこと尊敬してますけど、その全て見透かしたみたいな性格は好きになれません。」

そのつっけんどんな言葉に苦笑しながら、お前らしいよと俺は口元の笑みを深くした。それこそが俺の守りたかった「燃え上がる正義」だ。そして今一番にお前持っていて欲しくない正義でもある。その燃え上がった正義の吐き出し方をお前は知らないだろうから。それを知らなくていいと遠ざけてきたのはほかならぬ自分なのだけれど。

ぷるぷる、と小刻みに震える電伝虫の受話器を取り、予期していた報告を己の耳で聞く。

「・・・逃亡、ですか。え、クザン?クザンは知らないそうです。」

上層部が親友であるクザンを疑うのも無理はない。それほどに彼らは本当に仲がよかったから。それもまぁ、今日までの話になるだろうけど。

「・・・クザン、おまえ、どうする?」

無理に真実など見なくてもいいのだよ、と暗に本部に残して行くという選択肢も俺にはある。なぜなら今回のバスターコールは現在の青雉、ナマエに要請がかかっているものなのだから。

「・・・少し、考えさせてください。」
「そりゃ、まぁ。そうだよな。」

俯いた顔はどこか寂しそうに、瞳だけはうすら暗い怒りを灯している。今こいつの頭の中では裏切りとか海軍の考えとかごちゃごちゃしたものが渦巻いているに違いない。

「・・・とりあえず出動かかってるから、軍艦は出すけど。向こうつくまでには決めてよ。」

真実から目を背け続けるのか、真実を見てなおもその場に留まり続けるのか。少なくともサウロに協力して二人して駆け落ちなんて展開にならなければいい。本編に必要なニコ・ロビンはまた別の枠としても俺が今回ぜったいに回避しないとならない分岐はその分岐だけだ。残りのオハラの住民だとか、サウロだとかへと向かう感情は"今の青雉"にはどれも関係を必要としないものなのだから。それがどんな過酷な現実だとしても、お前に降りかかる火の粉を払うのが俺の役目。それが俺の存在理由であるはずなのだから。


 Iを追放せよ


title by シングルリアリスト

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