知ってるよ、全部 「ナマエ・・・」 「なに、ちょっと邪魔しないでったら。」 「・・・まだ終わらんのか。」 書類の提出をせかしに今日はサカズキが3回ほど部屋に来ている。完全に相手の意図は解ってはいるのだが、ちょっと驚かせたいので気付かないふりで通す。というかいくら俺が鈍いからと言って同僚の誕生日忘れるとか・・・ない・・・こともないけど・・・(現に去年はセンゴクさんの誕生日祝い損ねた)でも前日からアピールをされればそれなりにこちらも気付くよ、そこまで馬鹿じゃないし。でもサカズキはいじらしくも俺が全く気付いていないと思っているのか、そわそわと俺が書類を仕上げるたびに、じとりとこちらを見やる。 「何?」 「・・・!! なんでもない。」 意地っ張りなサカズキは絶対に自分から祝ってほしいなんて言わないことを知っている。それなりに付き合いも長いし、プライドの高いサカズキの行動パターンなどもうお見通しなのである。ちら、と書類を見るふりをしてサカズキを覗き見れば、視線が合ったことに顔を真っ赤になんかして、俺もおとなしくしているのが正直つらいくらいなんだけれども。今夜まで我慢我慢。もし失敗なんかした日にはボルサリーノにピュンピュンってされるに違いない。 それなりに真面目に取り組んだおかげで、今日までたまりに溜まっていた書類に加えて、明日提出のものまで綺麗にサインが終わり、机にきちんと並ぶ。正直もうやることがないのだが、これ以上サカズキと一緒にいると俺がボロを出しそうなんだが。どうしようか・・・。 「ナマエ、お前今日はあいちょるんか?」 「んー・・・ボルサリーノと予定があるけど、サカズキも来る?」 「・・・・・・。」 しゅんと下をむいたサカズキは眉をハの字型にして唇をひどく噛みしめているようだった。ちょっとまて、なんかすごい悪いことをしてる気分なんだけど! 「・・・なんでそんな顔するの。」 「別に泣いてなんかおらん!」 「泣いてる、なんて言ってないんだけど・・・」 執務机とサカズキを待たせているソファとは少し距離があるので、席を立って距離を埋めるようにサカズキの座る横掛けのソファに腰掛ける。少し俺より身長の低いサカズキは部屋の中でも帽子をかぶっているために上からでは帽子のつばが邪魔をして表情がよく読み取れない。 「・・・サカズキってば、どうしちゃったの。」 「お前には、解らん。」 「・・・ん・・・困ったなぁ。」 知ってるんだけど、知らないふりをしろなんてボルサリーノも難しいことを言ってくれる。でもここでサカズキが今夜パーティに来ないなんてことがあったら怒られるのはきっと俺だろう。もういっその事、サカズキに聞いてないふりをしてもらった方が楽かもしれない。芝居の苦手なサカズキの事だからきっとバレてしまうだろうが、それを指摘することはボルサリーノはしないだろう。 「・・・あのな、サカズキ。」 「・・・なんじゃ。」 帽子のつばを手のひらで取り去ってサカズキの顔をじっと見つめる。何を思ったのかぐっとサカズキはこちらを見てから目を閉じた。 「・・・サカズキ。」 何を思ったのか、とか言いながら大体気付いているのだ。己の自惚れでなければ、きっと彼は俺に好意を抱いてくれている。知ってるんだ、ただ俺が気付かないふりをしているだけで。気付かないふりをしていれば、楽だから。理由はいくらでもあるのだが、とりあえずは俺が大将青雉であるという事が一番の理由だ。異世界から来た俺はこの後の未来を知った上で青雉として赤犬と戦わなくてはいけないから。そのためには己のこの感情も、サカズキが俺に抱いている感情もきっと邪魔になるだけだ、そう今でも思っている。じっと俺が固まっていると、サカズキの瞳が震えてゆるく開いた。 「・・・まだ、解らんのか。」 何を、とは言えなかった。サカズキの目は俺が知っている本の中のものとは違っていたから。 「・・・何が?」 「これでも、わからんか?」 白のベストを引っ張られ、引き寄せられる。ふに、と唇にあたる感触と目の前いっぱいにサカズキの顔。今日くらいは良いじゃないか、と頭のどこかで声がした。 「ん・・・っふ、んぅっ?!」 触れるだけで引こうとするサカズキの腰を引き寄せ、そのまま深く口付ける。それなりに相手もこの年まで生きているのだから慣れているかと思ったが、長い口付けに顔を真っ赤にしたサカズキに胸を叩かれた。 知ってるよ、全部 「降参だサカズキ。・・・お誕生日おめでとう。」 「知っ、とったなら・・・、さっさと言わんか!!」 「ごめん、ボルサリーノがサプライズにしようって言ってたから。」 「・・・そっちじゃないわ、馬鹿が!」 back |