天敵は間違いなく君 朝、いつもより軽い身体と程よい倦怠感に包まれて、ベッドで寝返りをうった。 朝飯の時間は今日はきっと過ぎてしまっただろう、窓から見える太陽はいつも見ている位置より西に見える。 「寝過ごした・・・」 久しぶりにぐっすり眠れた気もするが、起きてから何もする気にならないのも考えものだ。昼飯までまだ結構あるな、と時間を確認してから再度布団に包まる。今日は見張りも掃除もその他諸々の仕事は入ってなかったはずだ。敵が来たら今回は自分の隊になるが、四皇の船に殴り込みしてくるやつはそう居ないだろう。くぁ、と欠伸をして夢の世界に逃避する。全部夢だったら良いのに。うとうとと再度眠りに落ちようと瞼を閉じたあたりで部屋に酷い騒音を立てて怒鳴りこんできたのは、黒髪を振り乱して怒るイゾウだった。 「ど、したの。」 「おまえら、本当面倒くせェ!!」 特にマルコ、と名前を聞く度に苦しい俺に気付く素振りもなくイゾウは話を続けていく。ひとしきり愚痴のようなものを吐き出したあと、はっと顔を上げたイゾウが「そういえば、」と青い顔して慌て出した。 「今、甲板で・・・「おい、ナマエ!甲板早く来い!!」・・・あー、覚悟して行け。」 「イゾウは行かないのか?」 「俺は今は喧嘩中、」 つまり甲板での騒動はマルコ絡みのようだ。一気に気が重いが、行かざるを得ないだろう。重い足取りで部屋から一歩出てみれば、ぎゃあぎゃあと騒がしい声が耳を駆けた。それに混じって聞こえた大声は、昨日聞いた男の声だろうか。人を掻き分けてすすめば、真ん中にぽっかり開いた穴に昨日の男とマルコが怒鳴りあっていた。どうしたんだこれは。 「マルコ、何やってるんだ。」 「ナマエには関係ねぇよぃっ!」 「・・・関係あるから呼ばれたんだろう。」 じゃなきゃ俺はまだ今頃ベッドの中で惰眠を貪っていたに違いない。そう言えばマルコは顔を引きつらせて俯いた。 「・・・サーッチ」 いきなり名前を呼ばれたのに驚いたのかフランスパンのような頭がびくりと跳ねた。 「ナマエ・・・俺関係なくね・・・?」 「お前の隊だ、なんとかしろ。俺はマルコを引き取る。」 「お前事の内容解ってる・・・?」 「今から聞く。」 俺達は一番隊だからな、そっちはそっちでなんとか収集つけろ、と近くに居た男の襟首を掴んでサッチ目掛けて投げる。少し非難がましい目をこちらに向けたマルコには目もくれず、マルコの部屋へと歩を進めた。今の俺の部屋にはイゾウが居るし、マルコを連れて昨日を思い出すあの部屋に戻りたくはなかった。 引きずるように腕を容赦なく掴んで部屋のある通路に来たところで、腕を乱暴に振り払われた。それに少しだけ苦笑しながら、マルコが部屋のドアを開くのを横で待つ。 「・・・ナマエも、怒ってるかよい?」 「・・・・・・何を?」 疑問に返されない言葉と共に開かれた部屋は、前に入った時よりも少しだけ荒れていたが特に何も言わず、勧められてもいないベッドに勝手に腰掛けた。 「俺が、何を怒ると思う?」 「そうだなぃ、ナマエは何も、怒らねぇよぃ。」 「・・・だろう?」 「・・・その分、俺はナマエを知らねぇし、何も解らねぇ。」 「そうだな。」 苦笑しながら頷けば、「良い機会だ」とマルコは真剣な目で俺と向き合うように椅子に座る。全てを見透かすような青い瞳に、もう逃げは許されないのだと悟った。 「俺も、もう逃げねぇよぃ。」 「そうか、なら・・・何処から話そうか。」 天敵、間違いなく君だろう そこに、海の青さと静寂を染み込ませた瞳が揺らぐような真実が合ったとして。俺達のこの関係が完全に崩れてしまうとしても、もうこれ以上の隠し立てはできないだろう。 海色の双眸に向かい直して、俺は静かに唇を開いた。 back |