さっきより甘い 「サカズキィ〜、」 間延びしたような口調でいえばボルサリーノさんみたいになってしまった。やっぱり口調が濃い人に絡んでると口調ってうつるよね。 何じゃ、なんて言いながらこちらを一瞬見たサカズキは俺だと気付いたのか、がたりと書類に滑らせていた手を止めて椅子から立ち上がる。 「あ、茶菓子届けに来ただけだからお構いなく。」 椅子から立ち上がったサカズキを再度椅子に座らせて菓子箱からシュークリームを出して机の上にひとつ置く。コーヒーがあれば素敵だったのだが、生憎とサカズキの部屋の作りもコーヒーの場所も解らなかった。 「ちょっと美味しい所のやつだから、さ。」 美味しかったし、と告げれば少し呆れたようにサカズキは息を吐いた。「先に食べたんか、」と聞かれたので、俺は笑ってごまかした。 「あー、甘いの食べると頭の栄養取れるから、調度よくない?」 俺、これから仕事まだ来るみたいだし。と笑えば、コーヒーくらい出すと言われてサカズキが席を立つ。だから俺、仕事あるんだけどなぁ・・・。 「おーい、サカズキ!本当お構いなく!」 「騒がしいのぅ、静かに座っちょれ!」 有無を言わせぬ口調で言われたから、勝手にこのまま帰るのもアレだし、給湯室から良い匂いもしてきたし、まぁ一杯くらいなら良いだろうか。それにクザンはあまり早く帰ってこないだろうと分かっているんだろうな、とも思った。 「ほれ、」 差し出されたコーヒーを啜りながらサカズキを見ていれば、席に座るなり、ワイルドにサカズキがシュークリームを掴んで口に運んでいた。まぁフォークとかで食べるものじゃないけど。なかなか豪快に食べるものだからかなり凝視してしまう。 「なんじゃ、」 口の周りに砂糖の粉とカスタード。強く握り過ぎたのか指にも少し落ちているクリームに苦笑。 「別に。」 見つめられていて居心地が悪かったのだろうサカズキはその後、残っていた分を一口に口に放り込んでいた。 「サカズキ、」 「だから、なんじゃ」 「・・・付いてる。」 あれだけ豪快に食べていれば当然といったら当然か。口の端に白いクリームがべっとり。しかもそれに気付いたサカズキは近くのタオルを手に取ったものだから俺は焦って手を伸ばした。 「なっ、」 待て待て待て。人の話聞いていた? このシュークリームかなり並んでクザンが買ってきたやつなんだって。つまりそれに見合って美味いわけで。あとかなり食べ零してしまっているサカズキの口周りにはまだクリームがかなり残ってるというのに、こいつは食べようとしていない! 勿体ない、と指でそれを掬って口へ運ぶ。長い己の指にべっとりついたクリームはサカズキの高い体温で若干溶けていたが、まぁ元のクリームの味は損なわれておらず、美味い。 「甘い、な?」 ぺろりとクリームのついた指を舐めれば、サカズキが真っ赤な顔をして怒っていた。 「ごめん、まだ食べた?」 そうだとしたら俺は大切にサカズキが頬っぺたに至るまでくっつけていた、いわゆる“お弁当”を勝手に食べてしまった事になる。 「えっ、あー、ごめん?」 「・・・じゃかあしぃ!さっさと去ね!」 さっきより甘い 背中に大声を頂いて急いで部屋から出た俺には、扉の向こう側にいるサカズキがへたりこんでいたのを知る方法は無かった。 back |