赤は止まれ 赤犬が暑いのか顔を真っ赤にしつつ、俺を怒ってから今日で3日目になる。書類を届けに行っても、わざとらしく顔を書類に近づけて、こちらを見ようともしない。それ程まで怒らせた覚えはないし、俺が馬鹿ばかりやるのは今に始まったことじゃないだろうに。何を怒っているんだ、と書類で顔を隠すサカズキに近づけば、ふいと顔を背けられる始末。 「サカズキ、ごめんってば。今度からはあんないかがわしい像創らないから、許して。」 この通り、と頭を深く下げてみてもサカズキからは何の応答もない。まだどうやら許してくれてないと俺は判断して、さらに謝る事を続けていれば、顔を真っ赤にしたサカズキが怒鳴るように叫んだ。 「わかったから、さっさと帰れ!」 あまりにも顔を真っ赤にしているものだから、それに俺が逆にビックリしてしまった。今日は俺の体感温度ではじりじりとやはりまだ焼け付くように熱いのだが、この前のように我慢できない程ではないハズなのだが。もしかしてプライドの高いサカズキのことだ。熱を出していても仕事しなきゃ、とか思っているのかもしれない。サカズキならあり得なくない話だ。どうせばれるのが嫌とかで顔を隠してごまかそうとしてたんだろ。 「・・・サカズキ、」 大股で机まで3歩。足の長い俺にはサカズキまでの距離なんか簡単に詰める事が出来た。サカズキはこちらを大きく広げた瞳で睨んだ、らしい。どうにも目が潤んでいるようにしか見えない俺はやはり風邪か、と溜息を吐いた。 「・・・サカズキ、ちょっとごめんな。」 ぽす、と額に手を置いてみる。元々体温の低い俺と元々体温の高いであろうサカズキでは通常の体温なんて分かりはしないのだが、気は心だ。若干熱い、どころじゃない。これはかなり、やばい。 「おい、サカズキ」 「医務室行こう」なんて詰め寄れば、真っ赤な顔のまま「行かない、」だなんて、強情を張るサカズキ。でも完全にこっちまで聞こえる位に心拍も上がっているようだし、能力だって加減できていないのか頭から漫画のように蒸気が上がってしまっている。こんな状態のサカズキを運べるのは耐性のある俺くらいしかないだろう。多少の火傷はこの際はもう覚悟しよう。 「おいっ、なにするんじゃ!!離せ!」」 ひょいっと持ち上げてみたが、伊達に三大将なんてやっていないだけあってサカズキの身体は重かった。でも俺もサカズキに負けず劣らずに鍛えているのだ。この程度なら多少抵抗されても抱きかかえたものを落とすなんて事はしない・・・能力で溶かされでもしない限り。 「暴れない、暴れない。医務室行くよー。」 じたばたと暴れるサカズキが「違う、離せ」とかなんとか耳元で繰り返していたが、この際気にしない。 「だって、熱あるんでしょ。無理しないで休む!」 体調管理だって海兵の努めみたいなもんでしょうが。と正論ぶった事を行ってみたのだが、なおもサカズキはこちらに目を合わせずに「馬鹿が、」と耳元で呟いた。だって俺馬鹿だもん。サカズキみたいにすらすらと書いてある文章なんて読めないし、サカズキみたいに上手く海軍のなかでやっていける自信もないし、正直俺達は両極端の位置にいて、俺が知る限りの未来ではもしかするとまた俺が青雉としてサカズキと闘うことになるのかもしれない。それでも、今は俺にとってサカズキは大事な同僚で、仲間だ。 「直ったら、小言でもなんでも聞くから。」 俵のように担ぎあげて歩いていれば、じんわりと伝わる熱。正直熱いけど、そんなことくらいで俺は落としたりしないから本当に安心して欲しい。ぎゅっと不安げに俺の背中のコートをたくし上げているのだろう手に苦笑する。若干アイロンのようにぎゅっと押しつけられているから皺になるんだろうなぁなんて苦笑すれば、背中から俺の名前を呼ぶ声がした。 「・・・心配しなくても落としたりしないから。」 「違うわ。馬鹿が。」 熱い頬は貴方のせいです その後、なんだかんだで医務室に駆け込んだ俺達だったが、嫌がる赤犬を無理矢理にドクターに見せれば、正常ですとのご回答。拍子抜けした俺と、だから言っただろうなんて更に怒り出すサカズキ。「じゃあなんでお前そんなに具合悪そうなんだよ」と聞けば、なんか無性に向こうが泣きそうな顔をしながら「きさまの所為じゃ、馬鹿が!」と理不尽に怒られた。 back |