冬生まれは暑さに弱い 暑い。こちらには冷房なんてものは無いから、暑がりの俺には酷くこの暑さは辛いものがある。 「あっちー、」 しかも目の前に積まれた書類でさらに精神的にも疲れ気味だ。別にやりたくないわけじゃない。こちらの共通語が英語なせいで、解読するまでに時間がかかってしまうのだ。いちいちこの量の書類に目を通していたら、真面目にやっても日中では終わりそうもない。 「クザァン、休憩しない?」 書類のインクが汗で滲まないように避けて机に突っ伏して、もう無理!なんて弱音を吐けば、あちらさんも暑さには弱いのか、あっさり了承の言葉が帰ってくる。 「大将の能力で、パパッと涼しくならないの?」 「あー、あれね。」 加減が難しいわりに、あんまり俺自体は涼しくないし、場所を間違ったり備品を巻き込むと後々使えなくなったり始末書だったりするからあまり好んで使いたくないんだけど。 「書類手伝ってくれたらいいよ。」 「まぁ、仕分けくらいなら」 「了解、」 能力を押さえつつ、体の温度を次第に下げていく。氷の塊を出すと後々後片付けが面倒だし。ひんやりと空気が冷えてきた所で、この前ガープさんがスイカを冷やすために持ってきたままになっていた金盥を部屋の真ん中に置く。 「クザン、タオル持ってない?」 「ハンカチしか無いよ。」 なら仕方ない、と壁にかけてあるコートを絨毯の上に置いて、その上に盥を配置する。きっとサカズキ達が見たら怒るんだろうけど、今は居ないから問題ないだろう。 「よっし、」 ぱきり、と盥の上に氷を配置して完成だ。そこそこ冷えると思う。 「どうよ、なかなか涼しくなったんじゃない?」 「なった、なった。」 部屋の真ん中にどんと鎮座した氷からの冷気がちょうどよく冷えた部屋の温度を一定に保っているようで、気持ちが良い。 「まぁ、サカズキ大将が見たら怒りそうだね。」 「来ないって。」 普段からそんなに来ないから、大丈夫、大丈夫。余裕の表情でクザンの煎れた水出し珈琲を啜りながら笑い合う。視界も頗る麗しいし、室温は快適だし、書類だってクザンが手伝ってくれるし。今日はいろいろ捗りそうだ。 冬生まれは、暑さに弱い 「ナマエ、この書類なんじゃが・・・。」 「「あ、」」 書類に不備があったとかで、わざわざ部屋に持ってきてくれたのだろうサカズキが、扉を開いた瞬間立ち尽くし、言葉をなくしてパクパク口を開けていたと思ったら、顔を真っ赤にして怒りはじめた。クザンは青い顔をして言い訳をひねり出して慌てていた。俺はちょこっとにやつきながらその様子を見つつ、最後の一口を口に流し込む。 「あっサカズキ大将、これには深いワケが・・・」 「どんなワケがあったら部屋に女の彫像なんか飾ることになるんじゃ!」 「・・・目の保養?」 「ああもうナマエ大将は黙っててください。」 じゅわりと音がして一瞬で像がなかった事になってしまった。力作だったのに。サカズキの能力で蒸発した像が熱い蒸気になり部屋中に充満する。むわりとむせ返るような湿度と温度がたまらなく不快だ。 「あーぁ、あっついし・・・。」 だが、サカズキが居る以上ここで能力を使って凍らせたりなんかすれば、また蒸発か水にされて部屋が駄目になってしまう気がしたので大人しくそのままにしておいたのだが、どうやっても我慢できる暑さじゃない。 「クザン、窓開けて窓。」 「きいちょるんか、ナマエ!!」 「聞いてるってば。」 がらりと窓を開けて貰っても、この暑さは抜けきらない。だくだくと流れる汗がスーツに張り付いて気持ちが悪い。 「ごめん、サカズキっ・・・もう限界・・・!!」 我慢出来なくってスーツのベストを脱ぎ捨て、ネクタイを引き抜き、シャツのボタンを外・・・嫌な音がしたからきっと何個か引きちぎってしまったと思う。クザンはそれにぽかんと口を開けて、サカズキに至ってはなんだか顔を真っ赤にして絶句していたが、どうしても暑さに弱い自分には耐えられないのだ。すまん、視界がとっても暑苦しい事になってると思うが我慢してくれ、というかサカズキに至っては謝るから出ていってくれないだろうか。 「もう無理・・・あっつい・・・!!」 「ちょっと、服着てよ、服!!」 「コートはどうしたんじゃ、コートは!」 ばふり、と掛けられたのはサカズキのコート。いや、だから暑いんだってば。むわりと噎せ返るような熱気にぐったりとソファに頭を預けて上を見てみれば面白いことになっていた。顔を真っ赤にしてごくりと息をのむようにして立ちつくす2人。 「・・・えっ、どうしちゃったの? 大丈夫?」 返事が無い。暑さに強いはずのサカズキまで熱でやられてるなんて、今年の夏は手強いみたいだ。ならばやっぱり涼しくなるものだとかクールビズだとかをセンゴクさんに提案してみた方がいいかもしれない、と茹だるような暑さの中でぐだぐだと考えた。 夏生まれも、夏には勝てない このあと我に返ったサカズキが俺のコートを見つけて怒り出したのは言うまでもない。 back |