中編:海賊♂ | ナノ


其れって悪いことですか


この前、連れだって出かける俺達を新入りの海兵が見て驚いていた。まぁ古株の奴らはもう何度も見慣れた光景になってしまっているらしくなにも反応が無いので、ある意味では新鮮な反応なのだが、それをおかしいんじゃないかと俺の補佐に糾弾する若さって本当眩しいというか、馬鹿だなぁと思う。まぁ大人しくしないようであれば、次の俺の遠征の際には栄光ある前線で闘って貰うことになるだけだ。

悪い奴じゃないんだけど・・・なんて弁解してやっても良いが、普段悪いコトばっかりしているドフラミンゴを庇ってもあまり説得力は無いし、俺は海兵さんだからそんな馬鹿な事はいわない。あいつは悪い奴だ。でも、それほどに怖い海賊でも無いんじゃないかと思う。まぁ俺が思うにって言うやつだ。

「なんで海賊と親しくしてるんですか、かぁ・・・」

それでもそう言われてしまうと、ちょっと言い返してしまいたくなる。俺は初めから好んで海賊と居るような男では無かったし、正直七武海なんていう政府を笠に着た海賊なんてものはそもそも関わりすら持ちたいと思わない人種だったのだ。強いて言わせていただければ俺は元々被害者である。

記憶を遡ること、十何年か前。詳しく数えていたわけじゃないからそのあたりは割愛させてくれ。とりあえず言えるのは、当時のドフラミンゴは今より更にやんちゃの盛りで、俺はまだ考えの浅はかな若者だった。


* * * 

「・・・だるい。」

皆が七武海の召集があるとかで忙しそうに走り回っている中、酷く眠たそうな顔をしてひたすら欠伸をこらえながら敬礼に励む海兵の1人が俺だ。長い遠征からの帰りで、疲労もピークを通り越しもう目を開いているのもやっとの状態だったので大人しく休めばよかったのだが、如何せん人が足りないらしく、報告を済ませて仮眠室に転がりこもうとした所を黄猿大将に捕まり、七武海軍のお迎えをする事になったのだ。

「・・・・ねみぃ。」

くぁ、と欠伸を口の中で噛み殺し、どうにか眠気をやり過ごす。七武海ってのは一応海賊とはいえ、政府関係者である。油断したら首とは言葉の綾なんかではすまない程度の大物だ。わかってはいるのだが、船が見えてからずっとこのポーズは正直眠いし、つらい。七武海の面々を迎えに行っていた海軍船が本部に戻ってきて、船の中からパッションピンクの毛玉が下りて来ようが、そいつが回りの海兵で遊んでいようが、眠いものは眠い。

ん、回りの海兵には俺の部下もいるんだっけか。
ちらり、と目をこじ開けて遊ばれている海兵の顔を見れば、運の悪いことに見知った自分の隊のやつらだ。遊んでるだけならば見過ごしもしたが、遊びが過ぎるようで武器まで取り出させて殺し合いをさせようとするのだから手に負えない。そして何故か先程からすごい勢いでこちらを凝視されている気がする。

「Mr.ドンキホーテ殿。」
「フフフッ!!」

名前を呼べば彼から先程よりも鋭い視線を感じたが、こちらに向けられたであろう瞳はサングラスに隠されて見えない。それがどうにも居心地が悪い。

「あー、そいつらも遠征帰りで眠いようだから離してやってくれないか。」

話が支離滅裂ですまない・・・と頭を下げれば、髪の毛を掴んで相手の顔近くまで引き上げられる。痛い、髪の毛は多いほうだから禿げる心配はあまりしたことはないのだが、今回は少しひやっとした。

「離しても良いが・・・」

後ろで解放されたのだろう部下がどさりと地面に落ちる音がした。おっ、案外話がわかるじゃないか・・・なんて思ったのも束の間。じっと穴が空くんじゃないかと思うくらい顔を覗き込まれ、「かわりにお前が遊んでくれるんだよなぁ?」と口角を上げながらにたり、と寒気のする顔で笑われる。この状態をなんとかしようと考えを巡らせてみたが、あまり良い打開策は浮かばない。

「・・・会議終わったらな。」

とりあえず会議に出席させておいて、その間に帰宅すればいいか。海賊が会議が終わっても本部に滞在し続けるなんて事もないだろうし。次の召集の時も全力で逃げれば良い。苦し紛れで考えたにしてはなかなか上手い言い訳である。

「フッフッ・・・逃げるなよ、」

先程の言葉に釘をさしつつも、やけにあっさり地面にやっと足を付ける事ができた。付け足された言葉は不穏だったが、まぁ良いだろう。ピンクの羽を翻しつつ上機嫌で会議室に向かうドフラミンゴを敬礼で見送ってから上司に連絡を入れれば、眠いならさっさと帰宅しろとの事だったので部下にも帰宅を促し、自分も帰宅することにしたのだが・・・

「なんでお前が、俺の家の前に居るんだ。」

さっき見送ったハズの男がなぜだか俺の家の前で座り込んでいた。威圧感からか、単にこの時間は人が出払っているのかは解らないが周りの住宅からは物音すら聞こえない。

「・・・会議はどうしたんですか、Mr.ドンキホーテ。」
「なんで逃げた?」
「逃げるわけ無いじゃないですか。仮眠取りに戻っただけですよ。」
「・・・喰えねぇ、将校さんだぜ。」
「そりゃどうも。」

さぁどうしようか。会話もなんだか途切れてしまったし、特にこちらとしてはもう何も話すことはないのだが無言はそれなりに辛いものがある。なにせあの七武海だ。なにをしでかすか解ったものじゃない。

「・・・本当の所、何しにきたんだ。」
「遊んでくれるんだろ?」
「会議終わったらな。」

繰り返すと男は至極楽しそうに笑い出した。こちらとしては正直何がしたいのかさっぱりわからないのだが。

「会議なら今頃終わる頃合いだぜ、フフッ」
「・・・・・・!」

そう来たか。

「・・・わかった、何して遊ぶんだ。」

海賊の“遊ぶ”ほど怖いものはない。特に目の前のドフラミンゴ殿は特に、だ。なにか危ない事を言われたら即逃げよう。かといって実力的に敵わないだろうと思う相手が本気になったら逃げ切れる訳はないので、俺の人生これまでかもな・・・なんて少しだけ思っていたのだが、相手の反応は俺の予想していたそれとは大きく異なったものだった。

「じゃあ、デートしようぜ、デート。」
「は?」

いきなりのデート発言にぽかんと口を開けてしまっても仕方無いだろう。からかっているのかと、少し上を見上げればさっきの返答を若干そわそわと待ちながら頬を染めている男が見える。えっ、どうした、どうしてこうなった。

「・・・どこ行くの。」
「んー、」

真剣に悩んでいるのだろうその表情は分厚いガラス越しで見通せないが、なんとなく悪いようにはされないのだろうという気がしてきた。というか命の危険から若干別の危険に種類がすり替わった気がしないでもないが・・・この際、気にしないことにしよう。

「じゃあ、メシでも食べに行くか。」
「それでしたら、お供させていただきますよ。」


 * * *


それから何度かデートと称するおつき合いをして現在に至るのだが、何故あの時に逃げなかったのか、と自分に問えば至極簡単。恐怖と眠気だ。だが、相手が俺にどういう感情を抱いてその行動に至ったかについては一度も聞いた事はない。そもそも当時のことを覚えているのかどうかも怪しいのだが、それがもしドフラミンゴにとって恋ってやつだったとしたら、運命の神様ってやつはよっぽどの変態に違いない。それともお得意の操り糸で俺の小指に勝手にあいつは運命までも結びつけたのだろうか。結局どちらにしても、彼の思い通りになってしまっているのだから、人生ってのは諦めずに粘ったモン勝ちに出来ているのかもしれない。

「・・・邪魔なのが居なくなったら、小鳥ちゃん呼んで遊びに行こうかな。」

スケジュール帳をめくりあげ、"遠征"と書かれた文字をなぞるように指で辿る。新人ちゃんが言うように海賊は悪だ。七武海も良い奴だとは言わないが、俺は少なくともドフラミンゴは嫌いじゃない。それは個人の主観だから俺がどうこう言う問題じゃないのだが、あまりに騒がれるとねぇ。俺達はただおつき合いしているだけなのに。ほら、なんだったっけ。人の恋路を邪魔する奴は・・・ってやつだ。海の上には馬は居ないから、とりあえず新人ちゃんは俺に気をつけた方が良いかもしれないけど。


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