中編:海賊♂ | ナノ


お風呂で溺死


ばたばたと足を浴室で動かす。能力者でない自分にとっては如何せん風呂というものが一日の至福の何割かを担っている。少なくとも私はシャワーだけで済ませるという事をしないので、きちんとじっくり長時間入浴する方だ。

「ふぅ、」

少しぬるめのお湯に体をどっぷりと浸せば、零れてしまう声は不可抗力というものである。親父くさいって言うな、自分は結構気にするほうだから。

透明なお湯にうとうとしたあと、ふやけた手で髪の毛を洗っていれば、浴室の外で物音。

ピリッとした顔で気配を探るが、今ひとつ気配を掴ませてくれそうもない。よっぽどの相手か、もう逃げてしまったのか。基地内だとかであれば部下だということも考えられたが生憎ここは自宅で、強いて言うなら玄関はカギを閉めたはずだ。気づいてない振りをしてシャワーコルクを閉め、湯舟に備え付けられていた桶を手に構える。洗い流して居ない髪から泡が緩やかに落ち、排水溝に吸い込まれていくのが嫌にスローモーションだ。

擦りガラスの向こうに人影。取られるものは特にはないが、命を狙っているだとか不穏な相手なら仕留めねばなるまい。たとえ、武器も服もない素っ裸だったとしても。

浴室のドアノブが開いた音に、桶を思い切り相手の頭目掛けて振り下ろした。


「おい、何のつもりだ、ナマエ。」


ぎろり、と金の瞳がこちらを睨む。この顔に見覚えはあるのだが、何故こいつが家にいるかが解らない。

「やぁ、小鳥ちゃん?」

いきなり家で物音がするから敵かと思った、と笑ってみれば複雑そうな顔でドフラミンゴが俺は海賊だから敵っつたら敵だろ、なんてふて腐れるように唇を尖らせる。

「まったく、災難だ。」
「そりゃ、すまない。」
「責任とれよ、将校さん?」

痛い、痛いなんて白々しい嘘を目の前でつく男にため息。

「湯冷めした。」
「おい、俺は無視か。」
「大人しく待ってろ、すぐに行くから。」

ドアから体を押し出し、扉を閉めようとすれば足で阻まれた。解せぬ。

「待てねぇ、って言ったら?」

にやりと笑った男に、同じように笑って提案を持ち掛ける。

「溺死したいのか?」

その回答に臍を曲げた小鳥ちゃんは扉を閉めた。私が珍しく一緒に入るかと誘ったというのに、連れない奴だ。海賊だ、とポジションばかり口にする癖に海賊らしく行動もできやしない奴より卑怯な事をして奴を手に入れたいと常々狙っている俺のほうが、よほど海賊らしいではないか!


「ドフラミンゴ、」


呼べば、風呂の扉にもたれて座り込んだらしく擦りガラスが一面ピンク色になる。

「なんだよ、」

「"俺に" 溺れても良いなら、入ってこれば?」


溺れたのは貴方のせいよ

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