中編:海賊♂ | ナノ


君しか見えない


本部から長い長い視察、という名の休養を仰せつかってしまったので、仕方成しに東の海まで来てみた物の、港町から覗いた様子は至極平和。若干ワーカホリック気味な自分の休養にはこのくらい平和な方が良いと、そういう判断だったのだろうと理解するのに時間は掛からなかった。ここまで来てもまだ心配なのはやはり机の上の書類が山積みになってるんじゃないか、とか、大体そのような事ばかり考えてしまう自分に溜息。せっかく久しぶりに長い休暇を貰ったのだから、少しくらい休まなければ。観光名所でも見て回ろうかな、なんて広場に足を向けてみた。

『これがかの有名なゴールドロジャーを処刑した処刑台です。』
説明文を目で流し読みながら処刑台を上に見上げる。

「海賊王、ね・・・・」

説明文の中にガープ中将の名前を見つけて苦笑する。あの人も大概伝説級だなぁ、なんて思いながら立ち去ろうとすれば、服が引きつれるように引っ張られる、違和感。

「スモーカーさん! 探しましたよ!!」
「・・・??!! 」

スモーカー、っていうのはアレか。
船の上でみた参考資料に載っていた男のことか。確かこの街に駐在している支部の統括。残念ながら、俺とそんなに体格が似ているワケでもないし、顔だってそこまで厳つくない。何処をどう間違えたのかとても気になるのだが、彼女の目はどうみても自分を見据えている。

「・・・すまないが、人違いだ。 私はナマエと言う。」
「えっ、あっ、あれ?」

頭の上にある眼鏡にそこで俺も気付いて、相手の顔の正位置に眼鏡を戻してやる。
すると彼女は顔をまっかにして謝罪を始めたので、それに苦笑した。

「あの・・・私、たしぎって言います!」

聞けば彼女は先程間違えたスモーカー大佐の部下で、見回り巡回に出た大佐に、急ぎの電話があったとのことで現在街を捜索していたらしい。見つからなくって・・・と乾いた笑いをする彼女の頭を撫でて、頷く。

「私も一緒に探そうか?」
「えっ、そんな・・・お手をわずらわせるワケには・・・!!」
「・・・そっちのが効率的だろう? それに、心配だし。」

君が、ね。
そう笑顔で言えば、たしぎ軍曹は苦笑してお願いしますと頭を下げた。

二手に分かれて捜索しましょう、言われて私は港へ向けて道を戻る。港の開けた所まできた所で、それらしい男を見つけた。丁度、港へ入ろうとしていた海賊を拘束し終えて他の部下に渡している所だった。今回の捕り物で活躍したのだろう青年の頭をがしがしと無愛想な顔で撫でている彼がきっと。

写真通りの白髪だが、海軍で言われていた狂犬の面影はあまりそこには無い。噂と実際ではやはり異なるのだろうか。とりあえず多分あれが捜索対象のスモーカー大佐に間違いないだろう。

「キミが、海軍のスモーカー君?」

声を掛ければ、一呼吸置いてぴりぴりとした殺気が身に刺さる。そういえば海軍のコートは鞄の中に押し込んだままだったっけ。どうしようかと一瞬考え込んで、口角をあげて笑み。狂犬、と揶揄されていた彼をからかってみたい。そういえばおつるさんもガープさんも何故かこの男の様子を心配していた。ということはそれなりの土産話を持って帰らなければ。その為にはこの男についてもっとよく知る必要がある。挑発に乗るように男に向けてこちらからも殺気をぶつけて様子を見る。

「誰だ、てめぇ・・・」
「んー・・・内緒?」

舌打ちと共に目の前に突き出されたのは、なにかの武器。見たことのない形だが、鈍器のようなものだろうか。血気盛んな目前の男はギラギラとした目で、こちらを睨む。その瞳をみた瞬間、ぞくり、と背筋を駆けたのは恐怖ではなく興味。さっきまでの好奇心なんかでは言い表せないようなそれ。言い方を変えれば、多分一目惚れとかいうそれと酷似しているのだろう。 欲しい。

「なぁ、武器ってさ・・・相手に向けた瞬間からはもう何をされても仕方ないんだよ。」
「ったく、何言ってやがる!!」

彼の武器に触れた瞬間、ひやりとした感覚。海牢石を含んでいるのだろうそれを首筋から指でどかしながら笑う。

「だから、スモーカー君、キミは俺にその棒を突き立てた次点で、負け。」

相手の手から奪った武器をそのまま同じように相手の首に押しつけて地に叩き伏せてやる。能力者のキミには辛いだろう? 歯を食いしばるように顔を歪める彼が、可愛らしく見えて仕方ない。

俺はこんな性格だっただろうか。 今までを振り返ってみた物のそのような事は無かったと思う。どちらかといえば他人にも言われるように穏やかで、淡泊と言われる部類だった。 なのに、どうして目の前のこんな男に酷く惹かれてしまうのだろうか。彼が魅力的すぎる、というのは何か違う気がした。 確かに今の自分からしてみたら酷く魅力的にみえるのだが、世間一般ではきっとこれは異常だと、誰もが口を揃えて言うのだろう。自分で言うのはあれだが、それなりに自分はモテる。女相手だが、それなりに経験もある。だが、今まで付き合った女性にむけてこのような感情は抱いたことは無い。

ということは、えっと?

地面に押さえつけた手首に感じる体温がじわり、身を焦がしていくようだ。思考回路がぐちゃぐちゃになって、全ての考えを放棄した。世間とか、今までとか、もうどうでも良い。ただこの男が欲しい。 ぐぐっ、とまだ抵抗するかのように手首に伝わる力。ばたつく足を跨るようにして制止し、手首への力を強める。

思うままに体の上を掌でなぞれば、時折体を震わせる彼。掌で思ったよりも柔らかい頬を撫で、太い首筋、厚い胸板、引き締まった腹筋、と上から思うままに撫でつけて、最終点としてそこに辿りついた。ふいに目を落としたそこは、すこしだけ芯を持っているようだ。

「お前、なんっ、何考えて・・・っ」
「うわ、流石、」

まだくたりとしているそれを掌で撫でつければ、それだけでも解るのが彼の質量という奴で。驚愕で見開かれたスモーカーくんの目がそこで脅えているような色を含む。いけない事、してるみたい。 ・・・いや、現在進行系でしているのだったっけ。

「いい加減、冗談もほどほどにしろ・・・っ。」

顔を羞恥でまっかにしながら、それでもこちらを睨む瞳は変わっていない。空の青と、己をその瞳に綺麗に映している。冗談で私がこんなことできる人間じゃないんだよ。この感情すらも冗談だったら、どれだけお互いに楽だっただろうか。

「本当、残念。」

もう実のところ、もう目の前しか見えないくらいなんだけど。 そろそろ時間切れみたいなんだ、本当に残念なことに。
後方から駆けてくる足音は、先程の軍曹のものだろう。

「時間切れ、みたい。」

彼の拘束を解こうとした時に、不意打ちに一発鳩尾に喰らった。まぁそれも悪くないと思うあたり、もう既に末期だと思う。


思考回路はショートしました

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