中編:海賊♂ | ナノ


煙に撒かれた結末


俺が本部に帰ってから、暫く経った。

ざっと1年弱・・・くらいだろうか。女々しいことにまだ俺はスモーカーくんの事を引きずって居る。 あまりに監査から帰ってきてから元気がないのを心配して、面倒見の良いモモンガ中将やらおつる大参謀やらガープ中将から、色々慰められてはいるのだが、離れてしまってからもまだ忘れられない。己だけ逃げてしまうように出てきたというのも、原因の一つだろうか。ふぅ、と息をつけば書類を出しに来ていた部下が心配そうにこちらを見た。

「お疲れでしょうか、ナマエ少将。」
「・・・いや、大丈夫だ。」
「少し外で気分転換など如何でしょう? 外は丁度快晴ですし・・・」
「そう、だな・・・じゃあ窓だけ開けて置いてくれないか。」

そう言うと部下は苦笑して窓を開いてくれた。吹き抜ける海風が心地よい。風がびゅうと吹いて押さえるのを忘れていた書類が部屋の床に落ちるが、それを拾うことも無いまま、窓の向こうに目を走らせる。

「・・・ついに幻覚まで見えるようになったのか、びっくりだな。」

窓の外に目をやれば、幾分か距離があるものの懐かしい白の姿が港に見えた。視線に気がついたのか、こちらをふいに見上げた彼はやはり、

「スモーカーくん・・・だ・・・」
「ああ、明後日の式典で大佐から准将になられるそうですよ。」
「そう、か・・・」

准将か。まぁ自然系の能力者ならとんとん拍子に昇格してもおかしくない。それに彼には、野心はなくとも実力がある。いずれ自分くらい颯爽と追い抜いていってしまうだろう。

「・・・ちょっと、疲れたかな。」
「えっと、少将・・・?」
「・・・今日の仕事はもう終わってるから、帰るわ。」

風邪っぽいから君も気をつけたらどうか、なんて心にもない言葉を笑顔で吐けば、顔を赤くしながらも心配そうにこちらを見る部下の肩を叩く。

「戸締まりはしっかりよろしくね。」

仕上げた書類を床から拾い、廊下へ抜ける。明日、明後日、明々後日くらいは休んだとしても困らないだろう。そもそも多分昨日出した書類だって上司の青雉大将が居なければ、決済は遅れるのだろうから、俺が多少仕事を遅らせたところで困りはしない。この書類を渡した足で、裏口からこっそり帰宅してしまおう。そうしよう、と階段を上っていたところで、腰辺りに鈍痛。

「ホワイトスネーク!!!」

空中に散らばりそうになる書類を腕で押さえてやれば、後ろからその反応にさえ怒ったようにしている彼と眼が合う。ぜいぜいと息なんか切らしながらも煙草を吸うのを止めないのが彼らしい。

「・・・久しぶり?」
「・・・まったくだ。」
「元気してたみたいだね、良かった。」

一体何を話しているのか、自分でもよく解らない。ただ彼を目の前にして、綺麗に顔を繕えているのか自信が無い。書類を腕に抱えてなければ、思わず抱きついてしまっただろうくらいには。ぎゅっと書類を掴めば、湿った紙の感覚。 彼が、気付かなければいい。 

「・・・お前、覚えてるんだろうな。」
「・・・何が、なんて言わないから安心してよ。 覚えてる。」

書類を汚さないように自分の海軍コートでくるんで床に置く。殴られて、それで俺達の関係はお終い。君は俺の事を赦して忘れて、俺は君に殴られて、それで。もう、会えないのだろう。 

「歯ァ、食いしばれよ」

その言葉にしっかり目を閉じて、来る衝撃に備えて歯を噛み締める。ひゅ、と風を切る音だけが耳に届き、うっかり鉄塊しそうになる己を戒める。これは俺が受けなくてはいけない拳。

「ぎっ、・・・!!!」

六式も使用せずにもろに受けた彼の拳はやはり重くて、痛い。階段先にある廊下の壁を破り、外まで吹き飛ばされたようだ、ガラスの割れる音、落下した先の土が巻き上げる土埃が目に入って痛い。・・・痛い、なぁ。

「・・・お前は、馬鹿だ。 受け身くらい取れただろう。」
「・・・取らなかったんだよ、スモーカーくん。」

君が最後に俺にくれるものなら、拳だって痛みだって甘んじて全部受けたかったんだ。最後なんだろう? そう呟けば、鳩尾にさらに一撃喰らった。久しぶりに喰らう痛みに口の中から血の味がしてくる。

「・・・お前は、最後にしたいのかよ。」
「・・・・・・。」
「・・・俺は、御免だぜ。お前には言いたい事が山ほど有るんでな。」
「はは、本当に、スモーカーくんって狡いや・・・」

手に入らないと、諦めることさえさせてくれない。 ああ、今きっと俺は酷く情けない顔をしている。

「・・・馬鹿野郎が、 話は最後まで聞きやがれ。」

首元を掴みあげられて乱暴に起こされた顔。もう一発殴られるのか、と笑ったところで降ってきたのは拳ではなく。確かに乱暴な彼らしい口付けだった。

「・・・勝手に自己完結で終わらせるな、馬鹿が!」
「えっ・・・あっ・・・スモーカーくん・・・」

どういう意味・・・、と聞いてみれば顔を思い切り赤くさせる彼。 つまり、つまり、そういう事、でいいのだろうか。 誤解して、期待してしまってもいいのだろうか。

「・・・スモーカーくん!!」
「ったく、ほら。」

起きろ、と差し出された手を取ってみれば、そこにあったのは今までどうしても手に出来なかった笑顔。背中と鳩尾の痛みも、確かにこれが現実だと示していて。酷いぼろぼろだというのに、笑いしか出てこない。

「・・・ったく、お前が逃げるから、やりすぎちまったじゃねぇか。」
「それって、俺の所為?」

まぁいいけど。
今は満足しているから。


煙に巻かれた結末


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