愛言葉で切り裂いて 「っ、ナマエ・・・・!!」 あの野郎。 何事も無かったように綺麗に寝かしつけられていたベッドから身を起こすと、腰から抜ける鈍痛に舌打ちして、崩れ落ちそうになる足を奮い立たせる。 「好き放題やりやがって・・・なにがごめん、だ・・・!!」 綺麗にかけられていた己の上着を乱雑に羽織り、 布団を蹴り上げてどうにか窓の外を見遣る。窓の外は日が傾いて海に沈みかけていた。どうやら随分眠っていたようだ。 「・・・っ、」 思い足を引きずり、でんでん虫に手を伸ばして息を吸い込む。呼び出す相手は決まっている。 電話口で怒鳴り散らせば、向こう側から息をのむ音。 「ナマエ!! 」 『あの・・・スモーカー・・・くん・・・?』 「・・・お前、殴られる覚悟は出来てるんだろうな、」 実際、殴らないと自分の中のものが収まりがつかない。幾分か拍を置いて、狼狽えたように聞こえる声。その声の背景に聞こえるのは波の音だろうか。 「おい、ナマエどこにいやがる・・・」 『・・・仕事しようと思って。』 そろそろ本部へ帰る期限だとは聞いていたのだが、こんなに急にとは聞いていない。 「言い訳はそれだけか・・・?」 『うん、』 「もう、会わないつもりか・・・?」 『・・・・・・そう、だね。出来ることならば。』 出来れば電話も取らない方が良かったのかもしれない、と告げられてでんでん虫を握りしめてしまっていた。既にどこか自己完結したかのように話した相手に苛立ちばかりが募る。 「ふざけるな、逃げるなんて許さねぇぞ・・・!!」 『だから赦してくれなくても良いって、言ったじゃないか。』 そんなに言われると決心が鈍ってしまいそうだ、と電話口で笑う男に眉間の皺を深くする。元から、逃げるつもりで手を出したのだとしたらなんて狡い奴だ。 『スモーカーくん、』 「お前の思い通りに動いてやると、思うなよ・・・!」 それは困った、と言わんばかりに握りしめたでんでん虫の瞳が伏せられる。それがどこか観念したような悲壮な物とは違い、苦笑するようなものだったので、怒鳴り散らすように大声を張り上げて非難を浴びせれば、なお困ったようにでんでん虫は表情を変えた。 『まいったな、』 「逃げるなら絶対に捕まえてやる・・・覚悟しておけ。」 『海賊じゃないんだから、放っておいてくれてもいいのに。』 「一発でもお前に拳入れなきゃ、納まりつかねぇ。」 『・・・それだけで済むんだったら、甘んじて受けたい気もするけどね。』 でも・・・それじゃあ駄目なんだよ、と告げられた言葉は酷く震えていた。 『だって、俺が赦されて良いワケないだろう?』 一発殴られるくらいで赦されてしまうのだったら、俺は何度も繰り返してしまうよ。 そういう相手に不敵に笑ってやる。 「俺が何度もあんな手に乗ると思ってンなら、お前は相当の馬鹿だな。」 『馬鹿、か・・・』 「ああ、テメェは相当な馬鹿だ・・・!」 『そうかもしれないね。 ・・・そろそろ電話切るよ。』 長話が過ぎたようだ、そう言って苦笑する男。 『思ってもない電話だったから取ってしまったけど。 これでさよならだ。』 「なっ、俺はまだ・・・!」 『名残惜しすぎて本部に帰れなくなりそうだから。切るね。』 「ば、っか、野郎・・・」 男は最後にごめんと謝り、その後は無通のコール音が響くだけだった。それ以降どう掛けても通じなくなってしまった電話。がちゃん、と力任せに受話器を置いて深呼吸する。呼吸するたびに身体が痛んだが、正直それは今となってはどうでも良い。 「何が、ごめんだ・・・」 無性に腹が立った。今この場に居ないあいつの行動にも、素直に奴が居なくなった事に対して喜べない自分にも。 「中途半端にほっぽりだすくらいなら、気紛れに手なんて出すんじゃねぇ・・・!!」 馬鹿野郎、そう呟いてみたが、どう考えてもそれは今の己にピッタリと当てはまる言葉。気付いてしまいたくなんて無かった。出来ることなら憎んで嫌悪してやりたかった。でもなぜだか苛立ちはする物の、今の感情はさっき言ったような感情とはほど遠い。 「くっそ、」 愛言葉で切り裂いて back |