時限爆弾の限界宣言 「おい、お前いつまでここにいるつもりだ?」 机の書類と頻繁にかかる電話の音に苛々としながら、スモーカーはソファの上で悠々と新聞を広げる男を見遣る。男は俺が愛用している葉巻を唇から指に移すと、微笑みながら白を吐き出す。ざっくり数えて今日で大体2週間目になる。毎日空きもせずに繰り返されるセクハラ紛いにもそろそろ体勢と対策がとれるようになってきた。慣れたくはないが。 「・・・いつまでにしようかなぁ?」 だってスモーカー君が可愛いんだもん、と軽口に告げられる言葉にげんなりする。よく考えてみろ。 俺は平均以上の体格の立派な男である。中性的で有るわけでも、少年のように若いわけでも無い。そんな男を捕まえて可愛い、なんてふざけているにしても質が悪い。 「さっさと帰れ。 うっとおしい。」 「スモーカー君、そんなに俺にバレたら駄目な事してるの?」 だったら監察官の俺としては調査しなきゃね、と笑う男。本部から寄越されている監察官で無ければとっとと追い出している所だ。我慢している俺は良くやっていると思う。 「正直、まだ東の海を廻って見てこなくっちゃいけないんだけど・・・」 東の海ってそれほど本部まで悪い噂とか聞かないし、と男は悪びれず言う。 「じゃあこんな所で油売ってる暇なんてねぇだろ。」 「・・・・まぁ、そうだけどさ。 何か癪だな、俺ばっかみたいで。」 新聞紙を床に放り投げて男は立ち上がった。心なしかそれは少し怒っている様にも見えるのだが、気のせいだろうか。 「スモーカー君は、俺が、他に行っちゃってもいいの?」 俺は離れるのは寂しいのになぁ、なんてナマエの瞳が暗く揺れる。いつもの変なジョークだと思ってまた書類に忙しく目を落とせば、男は苛ついた様に書類に向けて掌を叩き付ける。 「ねぇ、冗談とかじゃないんだけど。」 「それで?」 「つれないなぁ・・・、スモーカー君は。俺が居なくなっても平気なんだ?」 「・・・馬鹿な事ほざく暇があるなら、さっさと他の所行け。」 でも平気だとは言わないんだね、というナマエの思考回路はやはりおかしい。 「・・・平気に決まってるだろ。」 何時も通りに切り返したハズなのだが、男の反応を見て言葉尻が揺れてしまった。細い糸のような目ばかりしている男が、その言葉に驚いたかのように目を見開いたのだ。そんな傷ついたような顔を見るのは初めてかもしれない。 「おい、ナマエ・・・?」 「・・・そっか、そうだよね、うん、仕方ない。 だってスモーカー君、俺のこと・・・」 嫌 い だ も ん ね ? ニッコリと笑う仕草はもう見慣れたハズなのに、今のはどうにも薄ら寒い。区切る様に唇に載せられたワードに背筋から嫌な汗が伝う。でも、これもこいつの作戦の内かもしれない。嫌いじゃないなんて嘘でも言えば、初対面でセクハラしてくる奴はナニをしてくるか解ったものじゃない。無言を貫いた俺に、ナマエはただ笑っていた。さっきのような冷たい笑顔ではない。何時も通りのあの胡散臭い微笑みだ。 「・・・ねぇ、スモーカー君。」 「何だ、」 「嫌いなら、それでもいいや。 俺も諦める。」 捨ててもいいからこれだけは受け取って欲しい、とポケットの中を探る男。おいおい、指輪とか出てくるんじゃねぇだろうな。 「最後だから、目を瞑って手ェ出して?」 チッ、と舌打ちをしながら大人しく行動してやれば、カチリ、と音がして腕に冷たい感触。その瞬間に慣れない脱力感が全身を襲う。この感覚は明らかに海牢石によるものだ、と理解して更に舌打ちを重ねる。 「ッ・・・テメェ・・・なに考えてやがる・・・!!!」 「・・・は? そりゃ、愚問。 スモーカー君の事に決まってるじゃないか。」 俺は君がだぁいすきだからね、と紡ぐ男に目眩がした。 時限爆弾のリミット宣言 back |