ただ傍に居たいだけ ナマエの部屋にうっかり何故か足が向いてしまった。 今のところナマエの部屋からは人の話し声はしないようで胸を撫で下ろす。つい聞き耳を立ててしまうのは仕方ないだろう。 「なんで俺、こんなコトしてるんだろうねぃ・・・」 「・・・本当、何してるんだよ。」 驚きすぎて変な声が出た。ひゃあって何だ、ひゃあって。後ろから現れたのは部屋の主、つまりナマエが後ろに酒瓶持って立っていた。珍しく口には煙草を銜えている。こいつ喫煙者だったっけか。 「・・・はりこみお疲れさまです・・・?」 「おぅ・・・」 って、今のでだいたい自分がココに張り込んでいた事を証明してしまった事に慌てる。わたわたと弁解を測ってみれば、ナマエは何時ものようにふざけて、冷えた酒瓶を頬に押しつけた。冷たい頬は上気した熱を押さえてくれたが、赤く染まるのを防いではくれていないらしい。暗くてよく見えないだろうと思ったが、男の目には赤くやはり見えているようだった。 「寒いから、部屋入る?」 「いや・・・遠慮しとくよぃ。」 酒瓶を男に押し戻すと、苦笑した男が腕を掴む。ずるずる、といった方が正しいのか。部屋の前だったこともあり簡単に部屋に引きずられ、閉じこめられる。ぱたん、と軽い音を立てて閉まるドアをこれほど憎いと思ったことはない。 「椅子が1つしかないからベッド座ってて。」 進められた通りベッドに腰掛ければ、すぐ隣にナマエが座る。前は普通にしていた事も、なぜだか今日は気恥ずかしくて仕方ない。ナマエはどうなんだろうか、と横を見ればすぐ近くにある顔。だが、その表情は酷く不機嫌そうな・・・ 「悪かった。」 不機嫌そうな瞳と眼が合った、そう思った時に、いきなりナマエの口から零れた謝罪に身に覚えがなくて狼狽える。きっと謝らなくてはいけないのはナマエではなくて俺だ。 「なんでお前が謝るんだよぃ!」 そう謝られてしまっては俺が言い出せなくなる。唇を締めて言葉を噛み砕けば、男はさも不思議そうな顔をしてこちらを見た。 「悪かったな、気をつかわせちまって。 気色悪いだろう?」 「そんなんじゃ、ねぇって言ってンだろぃ!!」 「じゃあ、今日おかしかったのは何?」 ベッドの上でナマエが詰め寄ると、木製のベッドはぎしりと啼く。副隊長・隊長は個別部屋といっても人数が多いため、結構な狭さになる。当然ベッドの端に追いつめられてしまっては、もう何処にも逃げ場などないも同然だ。 「ーーーーっ、」 近い、近い、近い! 思わず近づいてくる顔。あまりにも近くに顔があるため、ナマエの重い前髪からチラチラと綺麗な目が覗いて見える。そう言えばこいつの素顔も見たことないなぁ、と興味本位にしげしげと見つめて見れば、その瞳が見たことのないくらいのぎらついた瞳だったのに恐怖する。 「なぁ、マルコ。 じゃあ何だって言うんだ。」 男は上半身をさらに近づけながら、口元を歪める。 "俺のこと 意識してんの? " 耳元で微かに聞こえる程度のハスキーボイスが嫌に俺を落ち着かなくさせる。 「・・・う、ぁ・・・」 息がかかるか、といった所まで顔が近づいてきて反射的にぎゅっと目を瞑る。俺の睫毛をゆらしたのは吐息ではなく溜息。 それに恐る恐る目を少し開けば、顔を元の位置に戻して、ナマエは面白そうに笑っていた。 「・・・ごめん、冗談が過ぎた。」 「ちょっと、待てよぃ!!」 腕を掴もうとすれば、ひらりとかわされてしまう。まだ怒っているのかと聞けば、始めから怒ってなどない、と返ってくる答え。 「・・・冗談だから、本気にするな。」 「・・・そうかよぃ。」 「だって俺達は・・・トモダチだろう?」 ただ傍に居たいだけ 友達だ、とこれ以上無いくらいに笑った彼の表情が拒絶に見えた。 back |