摘みあげた言葉の端 「ナマエに避けられてる気がするねぃ・・・」 「俺でもあんなことされりゃあ、逃げるわ。」 当たり前だろ、馬鹿と横に座るイゾウがぺしりと頭を叩く。 「・・・テメェが賭ようっていったんだろぃ・・・」 「そっちじゃねえよ。今日のあれだ、あれ。」 お前どうしたよ?とイゾウに心配される。確かに昨日から俺はどうかしている。あいつが手渡してきた書類を受取損ねて床にぶちまけたり、あいつが報告しているのだというのに、まったくそれが頭に入って居らず、聞き込まれたときに返事の声が裏返ったりと、らしくないことの連発。これじゃあナマエにしてみれば、俺に軽蔑されたとか避けられていると取られてもおかしくない。それに相成って相手が自分に嫌われたと思って避け出すのにも時間はさほどかからなかった。 「マルコ、お前本当どうしちまったんだ?」 そういうイゾウの口調には小さなトゲがいくつも含まれているように感じて居心地が悪い。 「なんでもねぇよぃっ!!」 俺だって何故こんな風に振る舞ってしまうのかよく解らないのに。あいつじゃなければ、息の1つでも吐き出してそれで終わりくらいに考えられるのに、なぜだか俺に知らないことが多くて、そしてなぜだかあいつの行動全てに対して苛つきが収まらない。 「はっはーん、マルコ、お前もしかして・・・ナマエが他の奴に取られたみたいで面白くないんだろ。」 お前ら仲良いもんなぁ、とイゾウはからかうようにそう笑う。 「別に、そんなんじゃねぇよぃ。」 「じゃあなんでそんな苛ついてるんだ? お前酷い顔してるぞ。」 「そうかもねぃ・・・」 「ナマエとマルコが仲悪いと俺もつまらないからな、早く仲直りしちまえよ・・・?」 「あぁ・・・わかってるよぃ」 口の中でもう一度わかってる、と噛み砕いて頭で反芻してみれば、俺は一体何がわかったのだろうと言う疑問だけが口の中に苦く残る。それを見越してか、イゾウは同じように苦い顔をしていた。 「・・・今夜、だ。今夜だよ、マルコ。」 それ以上はもう、面倒を見きれないと笑うイゾウは、策士のような顔をしていた。 「お前のことだ、とっくに気付いて居るんだろう? 気付いていないのならお前は相当鳥頭だ。」 「どういう意味だよぃ・・・」 「歳を喰った大人ほど、面倒くさい奴は居ねぇってハナシ。」 問いつめようとしたところでひらひらとイゾウは目線をズラして誰かを手招きする。まさか、と思ってそちらを見遣れば走ってくるのは4番隊のサッチだ。まだ酔いが醒めきっていないのかフラフラとしながら笑うサッチはストンとイゾウの横に腰を下ろす。 「おー? また珍しい組み合わせじゃん。」 ナマエだけ今日は仲間ハズレなのか、と笑うサッチに少しびっくりする。あいつの名前を聞いただけで跳ねる鼓動に舌打ち。 「ったく、そんな事はいいだろぃ。 用が終わったなら俺は失礼するよぃ・・・」 「まぁ、待て。」 腰に巻いた布をぐいっと引かれ、床に軽く腰を打ち付ける。 「ったく、なにするんだよぃ・・・っ?!」 痛みに苛ついてイゾウの方を睨んでやろうと顔をむければ、そこに居たのは妖艶に微笑むイゾウと、顔を真っ赤にしたサッチだった。 「は・・・・?!」 ちゅ、と唇が離れた音を他人事に耳が拾う。お前ら付き合ってたのか、なんて冷静に考えるくらいには何処か他人事のように驚いている自分に驚く。 「・・・そういうのは隠れてしろよぃ・・・」 ギャァなんて声出しながらわめくサッチを余所に、どこかイゾウは満足げである。 「よぉく考えろよ、鳥頭。」 ぺろりと唇を舐めるイゾウに後ろからサッチの蹴りが入る。 「サイアクだ・・・!! 俺にそういう趣味はねぇえええええ!!」 「ったく、サッチ以外にすりゃよかったか・・・?」 喚き散らすサッチをイゾウが首の根掴んで五月蝿ェと怒鳴っていた。要するにあいつ等は付き合ってはいないようだ、へぇ。あぁそういうもんか、くらいの感情しか湧いてこない。ならば、この感情は? 「そんな訳・・・ねぇだろい・・・」 はは、と乾いた笑いを零すくらいには理解した頭が、今度はその答えを認めたくないと悲鳴をあげている。第一、俺はノーマルだ。 そんな訳は・・・無いと信じたい。第一俺とあいつは親友だ、と言い切った言葉が揺らいでしまったのは、きっとそういう事なのだろう。 つまみあげた言葉の端 この感情に、その名前が付く訳がない back |