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君の世界と俺の世界


「ひとつ、ハーク、聞きたいことがあるの。」
ギリシャの哲学者の本を読みながら、ある一説が目に留まる。
同じく哲学の本を片手にムサカを貪る男に訊ねた。
「人は、足下の幸福を見逃しやすく、手の届かないようなものばかり追い求めるって?」
「ん、そのままの意味。」
「まぁ、戦争とかやめない時点で結構、損してるかもとは思うけど。」
その言葉に、ヘラクレスは手元の本を閉じる。
「哲学の話をすると長くなる。解りやすく言うと、空の星を掴もうとするあまり、足下の石に躓く。」
・・・その言葉の情景に見覚えがある。
先週、空があまりに綺麗で、星でも掴めるんじゃないかと思って歩いてたら、石に躓いて転んだ。
「ようするに・・・周りが見えていないって事。」
彼が口元で笑っていることから、確実に見られていた。
「見てたら、見てたって言いなさいよ、ばかっ!!」
本の背表紙で頭を叩こうとしたが、腕を簡単に掴まれ、止められた。
「危ない。それ、結構痛い。」
「解って、やってるのよ。」
彼は笑いながら、腕から本を取り上げる。
「きちんと、解説も読め。」
書いてある、と指で解説部分を指さす彼に苦笑を隠せない。
「いや、だって、長いし。読んでもあまり意味とかわかんないし。」
その言葉に彼はため息をつく。
「・・・お前、哲学読むの止めろ。」
「何よ、良いじゃない!!だって気になるんだもん!!」
「・・・哲学に興味があるなら簡単なものから読め。」
「簡単なものじゃ意味無いのよ、貴方の世界が知りたいんだから。」
その言葉に、彼は笑う。
「俺も、足下の幸福をたった今、見逃しかけたみたいだ。」


君の世界と、俺の世界と


でも、今、見つけた。

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