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出番なんて無い(2)


「・・・うー・・・行きたくないな・・・。」
買ったカフェオレを忘れてしまった。
あんな事があった後で、ちょっと行きにくい・・・と言うか、行きたくない。
取りあえず、トトメスさんに会わないようにしないと・・・と思いながら、そろりそろりと歩き始めた。

「・・・・・・あれ、無い。」
こそこそとホームのベンチに行けば、置いてあるはずの缶がない。
「・・・結構量残ってたのに・・・!!って、そう言う問題じゃないか。」
逃げるようにして帰ってしまった自分が憎い。
あの時缶を忘れていなかったら、こんな事にはならなかったのに。
「私は悪くない、きっと!・・・トトメスさんの所為だ!そう、トトメスさんの・・・。」
そう1人で言い訳を言っていれば、嫌でも思い出すのはさっきのこと。
・・・墓穴を掘った気がする。
火照ってきてしまった顔を誤魔化すように、ベンチの周りをもう少し探してみても、無い。
「・・・・・・清掃のおばちゃんが捨てたのかな?」
だとしたら、清掃のおばちゃんに申し訳ないことをした。後で謝っておこう。

「ナマエ、どうかしたのか?」
「・・・!・・・あー・・・トトメス、さん・・・。」
何でこう言うときに限って、この人と遭遇しなければならないんだ・・・。
正直なところ、ちょっと・・・いや、かなり気まずい。
どう接しればいいんだろう・・・だなんて、何時も通りに接することが出来なくなっている。
いつもって、どう話してたっけ・・・とか思いながら、私は口を開いた。
「いえ、その・・・さっき、忘れ物しまして。」
「へぇ・・・ナマエ。」
それってもしかしてカフェオレのこと?と聞かれて、私は顔をばっとトトメスさんの方へと向ける。 
私の考えていることを当てたのが嬉しいのか、なんだかニヤニヤしている。
「はい・・・私のカフェオレを、探してました。」
「そうか。」
「・・・そう聞くって事は、もしかしてトトメスさんが捨ててくれたんですか?」
そうなら申し訳なかったな。とか、気まずさよりもそっちに思考が持っていかれる。

でも、後々それを聞かなければ良かっただなんて、後悔する自分が居るだなんて思わなかった。


カフェオレの行方
   

(ああ、捨てたよ。・・・ご馳走サマ。)
(あー・・・捨てて貰ってすみません・・・って、はい?)
(ん?どうかしたのか、ナマエ?)
(え、あの・・・『ご馳走サマ』ってどういう意味ですか?)
(え?そのままの意味だけど。)
(・・・・・・え?)
(ナマエ。ご馳走サマでした。)
(・・・・・・・・・・・・!!!)



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