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幸福依存、故に憂鬱


「泣きたい。」
何をしても失敗続きの自分。
急げば焦って失敗する、走れば何もないところで転ぶ、
物を運べば零すか、壊すか。
恋人には挙げ句の果てに八つ当たり。
人生が自分に優しくない、なんて馬鹿な我が儘を言うことはないけど、
なんか酷く空回りばかりの自分が、一番自分が何も出来ていないことを実感している。

「嫌い、は簡単なのに・・・好きって言うのって難しい・・・。」

元々そんな恥ずかしい言葉を進んで口にする事が無かった事もあり、
感情を表立って口に出すことが苦手な自分は、最近口を開くことをうっかりすると忘れている。
感謝の言葉、謝罪、など様々あるが、その全てを、
解るだろう、そう言った類で済ませてしまっている気がする。
熟年夫婦の倦怠期、とはまた違う気もするが、似たような症状であることは明白。
付き合いたてのときから、完璧な恋人に必死に自分も追いつけるように努力していたが、
最近はなんだかお互いでなぁなぁになっている気がする。
妥協点を見つけた、とかいえば聞こえは良いが。

「私、完全に甘えてばっかで、なにもしてあげれてないし・・・余計に仕事増やすし・・・」

どんどんネガティブになっていく感情はさながらジェットコースターのごとく急降下気味。
自分は人より完全に劣っているだけに、それも増して加速する車輪。
終いには完全に地面まで到達したそれは、涙腺を緩ませ決壊させる。

「ふぇ、私、やっぱり駄目駄目じゃん。」

目尻に一杯に溜め込まれたそれは一筋零れてしまえば、
途端に流れを増して頬を伝い堕ちる。
ぐすり、と鼻を啜り涙を拭いてみても、次々と零れだして止まることを知らない。
(あーあ、また泣いてる。)
頭の中で冷静に自分が自分を見下ろす。
(泣けば解決すると思ってる? だから弱いんじゃないの?)
解ってる、解ってるよ。 そんなの誰より自分が、一番。

「どうしました?」

かちゃり、と片手にコップを持って部屋に入ってきたのはいつの間にか帰宅していた恋人。
この恋人如何せん、完璧すぎる。故に人より劣る自分がより劣等感を抱く元凶である。

「ナマエ、どうしました、なにか辛いことでも?」
「何も。」
「・・・いいえ、私には解ります。 何もなければ人は泣かないものなのです。」

さぁ、白状しなさい。 と優しい瞳で問われても、逆に泣きたくなるばかりだ。
下手な慰めほど、傷口を抉るものなんて無い。
どうせなら勢いよく詰ってくれれば良いのに、とも思うものの、
自分に砂糖以上に甘い恋人はそんなことを考えも付かないのだろう。
この人の弟も随分とあまったれだが、自分はきっとそれ以上に甘ったれである。

「・・・ノボリに言っても解決しないから、いい。」

当初は自立できていた足が、彼に寄りかかってからというもの機能していない。
やわらかに目元の涙を舐める唇も、今の私には辛いだけである。

「・・・私には言えない事ですか?」
「・・・うん。」
「私が頼りにならない、と言うことですか?」
「・・・違う。」

今の私はぐずる子供のようだ、むしろそれそのもの。
頼りになりすぎてて困る、なんて言えるわけがない。

「もっと、甘えてくださってもいいんですよ。 貴方は人を頼らなさすぎです。」
「・・・。」
「いつになったら、甘えてくださるんでしょうか、ねぇ・・・」

ふぅ、と息を付いて、困っているような顔を更に歪ませて彼は言う。
素直なのはベッドの中だけですか、なんて少し呆れた彼の声。
ああ、ほら、また自分はボタンを間違えて掛ていく。

「・・・ノボリの、甘やかしすぎる所、好きじゃない。 」
そういえば、ノボリが目線を合わせて笑う。
「私は、貴方が一人で立っては居られなくなるくらいに、してしまいたいんですよ。」
「っん、」

口を割らせる事が出来ない、と気付いた彼が私に口付ける。
ちょっとしょっぱいのはきっと私の涙の味なのだろう。
「・・・もうやだ、別れr「それ以上言ったら殺します。」


それは真綿で首を絞めるように

 
依存しているのはどちらなのだろうか。


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