ショート | ナノ
カボチャに睨まれたら、


「ナマエ !!」
「ナマエ 様!!」
ばたばたと走ってくるのはサブウェイマスターと呼ばれている双子。
自分はと言うと、カナワタウンにあるアパートの大家をしている。
一階上の部屋に住む双子はノックも無しに突然突撃してくるので、
階段を駆け下りる足音が今やベル代わりになっている。
そんな彼等の足音がばたばたとしたと思ったら、やはり勢いよく玄関の扉が開かれる。

「trick or treat !!」「 ・・・でございましっ!!」
キラキラとした目でこちらをみてくる4つの目に呆れたように息を吐く。
『今、何時だと思ってるんですか・・・』
双子のうちの白色のほう、クダリが部屋の中の時計をじっと見つめて笑う。
「あ、もう12時? うん、丁度良いよ!!」
「丁度良い時間でございますね、クダリ!」
呼応して顔を多少蒸気させたように染め上げるのは黒いほう、ノボリだ。
というかまだ今日はハロウィンでないのだが、双子にとってそれはどうでもいいらしい。
もちろん彼等にとって私の睡眠時間というのもどうでも良いらしい。
そうじゃなければこんな夜遅くに(一応)レディーの部屋に突撃なんかしないだろう。
それに溜息をついて目線をそらせば、双子が押し開けた扉の向こう、
ノボリ達の後ろでシャンデラが楽しげに揺れているのが見える。
現実逃避しながらそのシャンデラを眺めて聞き流していれば、またもそのフレーズが耳を流れる。

「だから、ね? トリック オア トリート!!」
「無いのでございましたら、悪戯でございます!」
『えっ、ちょっと意味がわからないよ、君たち。』
家の中に急いでとりあえず戻って机の上ののど飴を彼等の口に入れてやる。
無理矢理口の中につっこんでやった時のあの残念そうな顔。
写真でとって彼等のファンに見せてやりたいくらいだが、生憎手元にカメラがない。
『さっ、明日も早いんでしょ。 さっさと寝る!』
口に入れた飴をニコニコしながら食べているから大人しく引き下がるかと思いきや、
私の耳に ごりん、がりん、ごくり、の3重奏が聞こえた。嫌な予感しかしない。

「まだある?」
「私達は何度でもチャレンジします、要するに、」
「次はどうなるか全く わからない、だから!!」 
いつものセリフを吐こうとする口を塞ぐようにまた1つ口に無理矢理放り込む。
その飴もまた先程のように数秒で彼等の腹の中に消える。
そのやり取りを4回ほど繰り返せば、悔しそうな声がクダリから上がる。
2人で目配せをして、こちらをきりっと見遣る彼等の目は真剣そのものである。
「取りあえず今日は引き下がります、ですが私たちは明日も完全邁進でございます!」
『ようするに10月31日まで毎日来られると?』
「「流石、ナマエ!」でございます、ブラボー!!」
ぱちぱちと手を叩く双子はとても微笑ましいのだが、
その裏になにを企んでいるのか、それだけで少し気が重い。

『で、悪戯って私に何するつもりなんですか・・・?』
「するんじゃなくて、正直言うとして欲しい。 ボク等にちゅーして欲しい!」
「もちろんナマエ様から、でございますっ!!」
そうですね、クダリ!と言い切る双子はどこか夢を見ているようである。
正直なにかしらのフィルターを通すと、恋というものは人を変えてしまうものらしい。
たとえそれが廃人と言われる種類の双子だったとしてもだ。
彼等を変えたのが、私という事にはまだ実感がないのだが、
どうにもその恋という病は時と場所、人を選ばないものらしい。

『・・・もう遅いから今日は帰ったら? 玄関で話してたから冷えてるだろうし。』
「そうですね・・・それではお休みなさいまし。」
「うん、それじゃあ・・・また明日! おやすみー!!」
ぶんぶんと元気良く振られる手。 
正直、ほっぺにキスくらいなら悪戯と理由つけなくてもしてあげるんだけど。
頬をすこし緩ませながら手を少しだけ振り替えせば、2人はきゃあきゃあと女子のような声をあげて、
お互いの手を合わせてこちらをちらちらと見遣る。
ああ、もう。

『 ノボリ、クダリ! 』
階段を上る足を引き留めるように名前を呼んだ瞬間、2人の肩が大きく揺れるのが見える。
『 トリック オア トリート ? 』


悪戯という名の反撃開始である


悪戯する権利は私にもあるんでしょう?  さぁ、10月の洗礼を。



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